医薬品は疾患に対して分子レベルでどのように影響しているのでしょうか。複数の情報源からこの影響「分子パスウェイ」を探るには、データの収集と分析に相当の手間と時間を費やす必要があります。MetaCore(メタコア) は、人の手によって収集、検証された情報によって包括的なパスウェイ解析を行う統合プラットフォームです。

これまで、医薬品開発の現場で多く利用されてきた MetaCore。さらに、研究分野での利用が増えてきています。例えば医薬品とヒトとの関係の中に、腸内細菌を始めとする微生物が加わった場合、パスウェイに変化はあるのでしょうか? MetaCore はこうした仮説構築の段階でどのように活用できるのでしょうか。

独自の腸内環境評価技術「メタボロゲノミクス®」により、腸内細菌叢の遺伝子情報と代謝物質情報を統合的に解析し、腸内環境を適切にデザインすることで健康維持・疾病予防に役立てようとしているのが株式会社メタジェンです。個々人の腸内環境のタイプに合わせたアプローチを行う「腸内デザイン」を支える研究の現場で、MetaCore はどのように使われ得るのか、研究者の立場からの活用方法について、慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授で株式会社メタジェン代表取締役社長CEOの福田真嗣さんにうかがいました。

福田様

MetaCore(MetaCore, a Cortellis solution)
- 分子パスウェイの解析とディスカバリーリサーチの加速のための統合プラットフォーム -

「腸内デザイン」と MetaCore 。微生物とヒトとの関係を理解するにあたって、MetaCore の果たす役割はどのようなものでしょうか?

福田:ヒトの体内には、糖や有機酸、アミノ酸、脂肪酸など代謝によって作り出された代謝物質(メタボライト)があります。これらを網羅的に解析するメタボローム解析で得られたデータの意味付けに MetaCore は有用だと考えています。メタボローム解析はいわば究極の成分分析なので、心臓や肝臓といったさまざまな臓器の代謝物質データを得ることができます。現在われわれは、メタボローム解析と同時に遺伝子発現データ等を合わせて解析し、分子の情報を統合的に理解する「統合オミクス」によりアプローチしています。MetaCore は代謝物質の情報も含めて解析できる点から、腸内細菌叢からどのような代謝物質が産生されるか、すなわち、腸内細菌叢の働きを理解するというところに活かせると考えています。

メタボローム解析で得られた情報を遺伝子発現情報とうまく一緒に扱うことができると、例えば新規メカニズムなどの「探索」のために MetaCore が活用できると思います。ある代謝物質が増えているとすれば、どんなパスウェイが全体として動いているか? ということを知りたいので、可能性のあるトップ5の代謝パスウェイ候補リストを見るとします。そして「こういうパスウェイが動いている」という仮説を立てることができる。MetaCore の基盤データはマニュアルキュレーションなのもありがたいですね。

マニュアルにて丁寧に収集された精度の高いデータべース
マニュアルにて丁寧に収集された精度の高いデータべース

パスウェイが作られたコンテキストを知るために有用ということですね。

福田:そうです。検出された代謝物質群がどのような状態を示しているのか、という理解のために使えると思います。たとえば、健康な人と病気の人で細菌叢や代謝物質が違っているとします。そこで、MetaCoreで調べてみると、「この菌が増えて、この代謝物質が増えて、この病気になっているんじゃないか?」 という仮説を作るところまでできる。ただしこれはまだ相関であり、因果関係は別の実験で検証しなくてはなりません。

腸内細菌叢研究分野では、病気の発症メカニズムの解明のために無菌マウスをよく使います。悪い働きをしていると疑われる菌を分離し、無菌マウスの腸内に定着させてみて、本当に病気につながる物質を作るのか、そして実際に病気を発症するのかを検証します。ここまでが研究のワンセットですね。

MetaCore は、論文になるときには通り過ぎた仮説を構築するところで使われるというわけですね。

福田:わからなかったものが「こういうことに関係する可能性があるのか」という情報が得られる点に最も価値があると思っています。オミクス研究というのは、何がどう作用しているのかわからないからとりあえず全部見よう、そこからデータを解析して「なるほどこういう刺激をすると、こういう代謝経路が変化するのか」というところから仮説を作っていきます。データドリブンで、代謝物質の測定データと実際に起きている現象の理解をつなぐためのツールとして MetaCore は有用だと思います。

MetaCore トライアル(無料)

MetaCore は「腸内デザイン」というメタジェン社の独自技術にどのように関わりますか?

福田:「腸内細菌叢をひとつの臓器として捉える」ということがとても大事だと思っています。つまり、臓器であるところの腸内細菌叢の代謝パスウェイを理解することが、腸内デザインを実現する上で重要なのです。

なぜかというと、口から肛門までは一本の管になっているため、腸内細菌が住み着いている腸内は実は体の外側なのです。例えばものを食べるという行為について考えると、これは体外から体内に栄養素を取り込むための行為と言えます。その体内と体外の狭間である腸内にはたくさんの菌がいて、ヒトが摂取したもののうち、大腸まで届いたものをエサにしながら代謝活動を行い、その結果、体に良い物質や、反対に悪い物質を作り出しています。それらが腸管から吸収されてその一部が血中に移行し、身体全体を巡ることになります。したがって、全身の健康状態や疾患の発症に腸内細菌叢由来の代謝物質が影響を及ぼします。

これは薬でも同じです。よく使われる薬の多くは患者が自分で摂取できる経口摂取薬です。しかし経口摂取薬の場合、口から摂取した後、上部消化管で100%吸収されない限り大腸まで届くため、その薬が腸内細菌叢により代謝を受けてその効果や逆に副作用などにつながる可能性があると考えられます。

米 FDA が承認している薬剤は1000種類ほどあり、そのうち抗菌薬が200種類程度、残り800種類が非抗菌薬です。ところがこの800種類を40種類ほどの腸内細菌の in vitro 培養液に添加したところ、およそ4分の1の200種類近くの薬剤が40種の腸内細菌のいずれかの増殖を抑えてしまうことが、2018年に Nature 誌に報告されました。そのうち多かったのが向精神薬だったことも報告されており、向精神薬摂取が腸内細菌叢のバランスの乱れを促す可能性が示唆されました。

その反対に、飲んだ薬を腸内細菌が代謝してしまうということもあります。271種類の薬剤のうち、およそ3分の2の176個の薬剤が腸内細菌によって別の構造に変えられてしまうことも、2019年に Nature 誌に報告されました。薬剤の構造が変わったことによって、効果を発揮するケースもあれば、効果がなくなるケース、あるいは副作用がでてしまうケースもあると推測されます。

パーキンソン病の薬に L-ドパ(正式名称:L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)という飲み薬があります。これはドーパミンの前駆物質ですが、 L-ドパを摂取すると吸収後に血液脳関門を通ることができるので、脳内でドーパミンに代謝されることでパーキンソン病の治療に役立ちます。ところが L-ドパを、Enterococcus faecalis という菌が腸内でドーパミンに変えてしまうことが報告されました。更に別の菌が、そのドーパミンをまた別の物質に変えてしまうこともわかりました。これは、患者の腸内細菌叢のパターンに依存して L-ドパの効き目に違いが出る可能性を示唆しています。

こうしたことがあるならば、そもそも薬を作るときに、ヒト側のことだけを考えて開発していてよいのでしょうか? ヒトと共存している微生物群にもどのような影響があるのかということまでを考える必要があると思っています。

このような、いわゆる「個人差」と呼ばれるものの原因が実は人間のゲノムのみならず、その人の腸内細菌叢のパターンに規定されている可能性があるのです。人間は約37兆個の体細胞で構成されていますが、腸内細菌の数はそれと同じくらいの約40兆個と見積もられています。60kgのヒトならばその重量は1.0~1.5kgぐらい。また、人間のゲノムはおよそ2万2000個であるのに対し、腸内細菌のゲノムはその400倍程度と見積もられており、遺伝子数だけで考えると、圧倒的に腸内細菌のほうが多いのです。

そして腸内細菌と人間は常に相互作用(クロストーク)しており、もちろん上述の L-ドパ のように悪いことばかりではありません。たとえば、マラソンアスリートが走行した後には、Veillonella 属の菌が増えることが近年の研究でわかったのですが、実はこの菌が持久力を改善する可能性が示唆されています。持久的な運動をすると乳酸が増え、遅筋や肝臓でエネルギーとなりますが、その一部は大腸内に流れ出ます。Veillonella 属の菌は乳酸を分解して、プロビオン酸という短鎖脂肪酸を作ります。これが腸から再吸収されて、筋肉に作用することで、運動活性を上げることが明らかとなりました。実際に、Veillonella 属の菌をマウスに経口投与して運動をさせると持久力が上がることが報告されています。代謝物質を介して、腸内細菌とヒトとはやりとりをしており、結果としてヒトの運動機能にまで影響を与えているのです。

福田様

MetaCore を腸内細菌叢研究に使っていただく上で、さらにこの部分を改善して欲しいというリクエストはありますか?

福田:腸内細菌の代謝に関する情報を入れて欲しいですね。もちろん、すべての腸内細菌のゲノムやその機能がわかっているわけではないので難しい、ということも重々承知していますが、マニュアルキュレーションの MetaCore だからこそ、腸内細菌叢全体の代謝といった情報まで加わることを期待しています。

MetaCore の特徴は代謝物質の情報までわかる点だと思います。代謝物質を理解することは、人間と腸内細菌との相互作用を理解するうえで欠かせないこと。食べ物は人間の栄養でもあり、腸内細菌の栄養でもあります。どのような腸内環境タイプの人がどのようなメニュー、食材、薬を摂取したら腸内細菌がこんな代謝活動を行う、という情報までを MetaCore が提供できたら完璧ですね。そういったものを一緒に作れたら、研究のみならず一般の方にも有用かと思います。

菌そのものの情報を網羅的に記述していくのは少し難しいかもしれませんが、実は、製薬企業からも「ヒトー腸内細菌間相互作用の情報が欲しい」というリクエストがあり、パスウェイマップ上にそういった情報を加える取り組みも初めています。

福田:素晴らしい。

Key Pathway Advisor

遺伝子発現データの包括的な解釈を可能にするワークフローツール

Drug Research Advisor

分析、視覚化、インサイトを備えた、創薬研究ワークフローツール

Integrity, a Cortellis solution

最も包括的な生物学、化学および薬理学データを活用して医薬品開発を加速する単一のソース

一例として胃がんと強い関係があることがわかっているピロリ菌の情報はもうパスウェイマップとしてまとめてあります。今後、さらにマイクロバイオームの情報も含んだマップを作るということも考えられます。

福田:体細胞は真核生物で、菌は原核生物。まったく違う生き物ですが、人間はそれらが合わさって構成されているスーパーオーガニズムと捉えられます。つまり、ヒトの体側のことだけでは理解出来ないことも多いため、腸内細菌や人間と微生物を行き来する代謝物質なども含めて、統合的に理解する必要があると考えています。それが最終的には人間の健康や病気、さらには人間とはなにか、という究極の問いへのヒントになると思いますので、MetaCore はその理解を助けてくれるツールになることを期待しています。

MetaCore(MetaCore, a Cortellis solution)
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クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社

Clarivate Analytics (Japan) Co.,Ltd.

クラリベイト・アナリティクスは、イノベーションを加速するために信頼性のある知見と分析を提供する世界的リーディングカンパニーです。過去150年にわたる事業継続を通じて、Web of Science™、Cortellis™、Derwent™、CompuMark™、 MarkMonitor®、Techstreet™など、イノベーション・ライフサイクル全般にわたり信頼のある製品ブランドを築いてきました。これらの製品は科学と学術研究、特許調査と工業規格、商標およびドメインブランド保護、製薬およびバイオテクノロジーなどの分野で今日のイノベーションをサポートします。
現在、クラリベイト・アナリティクスは、起業家精神に基づく独立した新会社となり、お客様のアイデアをより速く革新的なイノベーションに変えていくためのソリューションを提供し、100カ国以上で事業を展開しています。

(聞き手:クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社 ライフサイエンス
ソリューションマネージメント ソリューションコンサルタント 門岡 桂史)

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クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社

福田 真嗣

Shinji FUKUDA

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授 / 株式会社メタジェン代表取締役社長CEO
2006年明治大学大学院農学研究科博士課程を修了後、理化学研究所基礎科学特別研究員などを経て2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授、2019年より同特任教授。2016年より筑波大学医学医療系客員教授、2017年より神奈川県立産業技術総合研究所グループリーダーを兼任。2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞。2015年文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015」に選定。同年、第1回バイオサイエンスグランプリにて、ビジネスプラン「便から生み出す健康社会」で最優秀賞を受賞し、株式会社メタジェンを設立。代表取締役社長CEOに就任。専門は腸内環境制御学、統合オミクス科学。著書に「もっとよくわかる!腸内細菌叢 健康と疾患を司る”もう一つの臓器”」(羊土社)。

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株式会社メタジェン