プレスリリース
国立天文台 慶應義塾大学

天の川銀河の中で二番目に大きなブラックホールの兆候を発見

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関連研究者

竹川 俊也

科学研究費助成事業

慶應義塾大学・特別研究員(DC1) - 2015年度(平成27年度)

研究分野 数物系科学

概要

慶應義塾大学理工学部物理学科の岡朋治(おか ともはる)教授らの研究チームは、天の川銀河の中心領域にある特異分子雲中に太陽の10万倍の質量を持つブラックホールが潜んでいる兆候を見出しました。多くの銀河の中心に巨大ブラックホールがある事が最近の研究によって分かってきていましたが、その形成・成長のメカニズムは解明されていませんでした。今回、慶應義塾の研究チームは、天の川銀河の中心核「いて座A*」から約200光年離れた位置に発見された特異分子雲CO–0.40–0.22の詳細な電波観測を行い、その詳細な空間構造と運動を明らかにしました。これらの結果から、太陽の10万倍もの質量を持つコンパクトな重力源があるとこの分子雲の運動が説明できます。赤外線やX線観測ではこの重力源の位置に対応する天体は見られないこともあり、ブラックホールであるとすると、天の川銀河では中心核「いて座A*」に次いで二番目に大きなものとなります。この事は、太陽の数百倍から10万倍程度の「中質量ブラックホール」が合体を繰り返す事によって中心核巨大ブラックホールが形成され、さらに成長していくというシナリオを支持するものです。


研究背景

天の川銀河を含む多くの銀河の中心には、数百万太陽質量(注1)を超える質量をもつ巨大ブラックホールがあると考えられています。しかしながら、これらの中心核巨大ブラックホールの起源は未だ解明されていません。一つの説として、恒星同士の暴走的合体によって形成された「中質量ブラックホール」(注2)がさらに合体を繰り返し、銀河中心に巨大なブラックホールを形成するというものがあります。このシナリオを確認するためには、実際にこの「中質量ブラックホール」の存在を確認する必要があります。そしてこれまでに数多くの中質量ブラックホール候補天体の検出が報告されてきましたが、いずれも確定的なものではありませんでした。


研究成果

研究チームは、国立天文台野辺山45メートル電波望遠鏡とASTE 10メートル望遠鏡を用いた観測結果から、天の川銀河の中心領域に4つの高励起ガス塊(注3)を発見していました(図1左; 2012年7月報道発表)。今回、このうちの一つに含まれる特異分子雲CO–0.40–0.22について、野辺山45メートル電波望遠鏡を用いた21本の分子スペクトル線による詳細観測を行いました。その結果、同分子雲から18本の分子スペクトル線を検出し、分子ガスの詳細な空間分布と運動を描き出すことに成功しました。



図1:(a) 天の川銀河中心方向の一酸化炭素(CO)115ギガヘルツ/346ギガヘルツ回転スペクトル線強度の合成図。白い部分は高温・高密度ガスが集中している領域を示す。(b) 今回観測対象とした分子雲CO-0.40-0.22周囲のシアン化水素(HCN)355ギガヘルツ回転スペクトル線の積分強度分布と(c) 銀経-速度分布。黄色の楕円は、過去の観測で発見された球殻状に膨張するガスを示す。 

このCO–0.40–0.22は楕円状の空間構造をしており、極めて広い速度幅をもったコンパクトな希薄成分と、やや緩い速度勾配をもつ直径10光年程度の濃密成分から成ります(図2)。一方で、赤外線やX線の観測データと比較しても同分子雲方向には明瞭な対応天体が見られませんでした。また分子雲の中心部にも空洞構造はみられず、超新星爆発などの局所的なエネルギー供給による膨張がこの速度幅の原因であるとは考えにくいのです。では、この分子雲の極めて広い速度幅を作りだした原因は何でしょうか?


研究チームは当該分子雲の形成メカニズムとして、次のような点状重力源による「重力散乱モデル」を提唱しました(図3、4)。


  1. 巨大な点状重力源に向かって雲が落ちていく。
  2. 点状重力源に近づくにつれて雲は加速され、近点で最高速度に達する。
  3. 近点通過後は減速されながら点状重力源から遠ざかっていく。

このモデルは、観測されたCO–0.40–0.22の速度幅のみならず、空間-速度構造を非常によく説明します。そしてこれに従うならば、CO–0.40–0.22の中心には半径0.3光年以下の10万太陽質量の天体が潜んでいることになります。これは、天の川銀河内で最も濃密な球状星団M15の中心部分よりも一桁近く高い質量密度であり、対応天体が見られないことも考え併せると、特異分子雲CO–0.40–0.22の極めて広い速度幅を作りだしたのは、ブラックホールではないかと考えられます。



図2:一酸化ケイ素(SiO)86ギガヘルツ回転スペクトル線の積分強度図(上図)。同じく一酸化ケイ素スペクトル線の、左図中矢印に沿って作成した位置-速度図(下図)。



図3:重力散乱モデルに基づいて計算した雲の時間発展を上から見たもの(上図)。軸の単位はpc(パーセク)で1 pcは3.26光年。隣り合う二つのガス雲が点状重力源に引き寄せられていく様子を、シミュレーション開始から10万年ごとに90万年後まで表示している。下図は、上図下方向から見た場合の位置-速度図を、一酸化ケイ素回転スペクトル線位置速度図に重ねたもの。シミュレーション開始後およそ70万年後のガス雲の位置と速度が観測とよく一致する。


本研究成果の意味

本研究成果は以下の二つの意味において重要なものでした。第一に、存在が示唆されたブラックホールは、恒星質量よりも遥かに大きく、銀河中心核の巨大ブラックホールに比べると一桁小さい、「中質量」ブラックホールであった事です。この10万太陽質量という質量は、天の川銀河内のブラックホールとしては、中心核「いて座A*」に次いで二番目に大きなものになります。このような中質量ブラックホールが、中心核から200光年という比較的近い距離に存在するとすれば、前述の中心核巨大ブラックホール形成シナリオを支持する重要な観測的事実になります。つまり、その中質量ブラックホールは中心核巨大ブラックホール形成・成長に寄与する存在と考えられるのです。


第二に、大型電波望遠鏡を用いた星間ガスの運動の観測からブラックホールを間接的に検出できる可能性があることです。天の川銀河の中心部には、特異分子雲CO–0.40–0.22に類似したコンパクトな高速度ガス雲が数多く検出されており、これらの一部についてもブラックホールによる重力散乱で形成された可能性が考えられます。また、天の川銀河全体におけるブラックホール総数は1億個程度との評価もあり、現在X線観測から発見されているブラックホール候補天体数(十数個)との間には大きな開きがあります。つまり、真の意味で「暗い」ブラックホールを、スペクトル線の広域観測によって探査する可能性が示されたのです。今後、野辺山45メートル望遠鏡を使用した大規模な天の川掃天観測、またはアルマ望遠鏡(注4)を使用した近傍銀河の高解像度イメージング観測によって、ブラックホール候補天体の数は飛躍的に増加するでしょう。



中質量ブラックホールによる重力散乱で雲が加速される様子(イメージ図) 


注1:太陽質量 :天文学で使われる質量の単位。1 太陽質量 =1.99×1030 kg。

注2:中質量ブラックホール :大質量星の残骸である「恒星質量ブラックホール」と銀河中心核の「巨大ブラックホール」との間にある、中間的な質量のブラックホールの事。

注3:高励起ガス塊 :高いスペクトル線強度比から高温・高密度のガスが集中していると考えられる領域。

注4:アルマ望遠鏡:アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)。南米のチリ共和国北部にある、アタカマ砂漠の標高約5000メートルの高原に建設された巨大電波望遠鏡。国立天文台を代表とする東アジア、米国国立電波天文台を代表とする北米連合、欧州南天天文台を代表とするヨーロッパなどの国際共同プロジェクトとして進められている。


研究論文について

本研究成果は、1月1日発行の米国の天体物理学専門誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されました。


論文の題目

"Signature of an Intermediate-Mass Black Hole in the Central Molecular Zone of Our Galaxy"

著者と研究当時の所属

岡朋治(慶應義塾大学 教授)

水野麗子(慶應義塾大学 学部4年生)

三浦昂大(慶應義塾大学 大学院生)

竹川俊也(慶應義塾大学 大学院生)

この研究は、文部科学省科学研究費補助金、基盤研究(C) 24540236の補助を受けて行われました。


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