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光産業創成大学院大学(浜松市西区、学長 加藤義章)、トヨタ自動車株式会社(本社 豊田市、代表取締役社長 豊田章男)、浜松ホトニクス株式会社(本社 浜松市中区、代表取締役社長 晝馬明)らは、核融合燃料に対向して設置したレーザーから強度を変えて 3段階で対向2ビーム(計6ビーム)照射することで、効率の良い核融合燃料の新たな加熱機構を発見しました。これは、大型のレーザー核融合施設と比較してレーザー本数が少なくコンパクトな装置でも核融合燃料を圧縮でき、十分に加熱、発光可能なことを示したものであり、将来のレーザー核融合実用化に向けて前進しました。本研究成果は、7月28日(木)付け米国物理学会誌「PhysicalReviewLetters(フィジカル・レビュー・レターズ)」の電子版に掲載される予定です。また、10月17日(月)から6日間、国際原子力機関(IAEA)が京都で主催する「第26回IAEA核融合エネルギー会議」で本研究成果を発表する予定です。なお、本研究チームは、光産業創成大学院大学、トヨタ自動車株式会社先端材料技術部、浜松ホトニクス株式会社中央研究所、株式会社豊田中央研究所、名古屋大学未来社会創造機構、公益財団法人レーザー技術総合研究所、米国ネバダ大学リノ校、国立研究開発法人産業技術総合研究所の8研究機関19名の研究者で構成されています。



3段階の対向2ビーム照射概念図


研究成果の概要

本研究では、直径500マイクロメートル(マイクロは百万分の一)、殻の厚み7マイクロメートルの球殻状の核融合燃料に、最初にピーク強度3000億ワット毎平方センチメートル(3.0×1011W/cm2)、パルス幅25.2ナノ秒(ナノは十億分の一)のフットパルスレーザーを対向2ビーム照射し、核融合燃料を内向きに加速させます。次に加速された核融合燃料に、ピーク強度21兆ワット毎平方センチメートル(2.1×1013W/cm2)、パルス幅300ピコ秒(ピコは兆分の一)のスパイクパルスレーザーを対向2ビーム照射し、中心部に押し込んでコア(高密度化した燃料)を形成します。最後に形成されたコアにピーク強度670京ワット毎平方センチメートル(6.7×1018W/cm2)、パルス幅110フェムト秒(フェムトは千兆分の一)のヒーターパルスレーザーを対向2ビーム照射してコアを加熱、発光させます。このように核融合燃料の圧縮によるコアの形成後にヒーターパルスレーザーでコアの加熱を行う「高速点火方式」でコアからのX線発光を観測したのは初めてであり、またこの発光はスパイクパルスレーザー照射後の状態と比較して6倍以上にも増大していました。今回の成果は、ヒーターパルスレーザー照射前にコアの形成に必要なエネルギーを2段階に分けて照射して核融合燃料から無駄なく低温高密度なコアを形成したこと、精緻に光軸とタイミングを合わせた対向2ビーム照射を実現したこと、また3段階それぞれのビームの集光位置を工夫したことによります。



ヒーターパルスレーザーによるコアからの発光

左:球殻状の核融合燃料に対してフットパルスレーザー、スパイクパルスレーザーを照射した後の発光の様子。

右:コアに対してヒーターパルスレーザーを照射した後の発光の様子。コア中心に強い発光が確認できる。


観測結果をシミュレーションで確認した結果、コアへ対向2ビーム照射をすることで、レーザーパルスがコアの縁で吸収されて光の速度に近い高速の電子流が発生し、この高速の電子流がコア中央部で交差して強い磁場(500万ガウス以上)が形成され、電子流を構成する電子がこの磁場に巻き付き、コアが効率よく加熱されていることが分かりました。ヒーターパルスレーザーからコアへ伝搬されたエネルギー変換効率は14%程度と見積もられ、米国、日本、中国の大型レーザー施設の実験結果(3〜7%)を大きく上回っています。


コアへレーザーを照射するとこのような強い磁場が発生し、コアを効率良く加熱できる可能性があることは10年以上前のシミュレーション結果から提案されていましたが、コアの密度が高くなると、磁場をつくるための電流がコアの電子、イオンとの衝突でかき消されてしまうため、将来のレーザー核融合の実現に向けてコアがより高密度化されるとこの加熱機構は機能しないとされていました。しかし今回の発見により、高密度なコアでも対向の高速電子流が交差すると磁場が形成されてこの加熱機構が維持されることが分かりました。この加熱機構は、レーザー本数が多く大型のレーザー核融合施設と比較して小型でコンパクトなレーザー核融合施設でのレーザー核融合実用化が期待できることを示したものです。

今後は、引き続きコンパクトな装置でのコア加熱の効率化、レーザーの大出力化を進め、レーザー核融合の実用化に向けた研究開発を進めていきます。



加熱機構のイメージ

ヒーターパルスレーザーの対向2ビーム照射により発生した高速の電子流が中央部で交差して強い磁場が形成され、電子がらせん運動をしながら磁場に巻き付いてエネルギーが伝搬していく


研究の背景

核融合は太陽エネルギーの源です。この核融合を地上で実現するためには、コアを太陽の中心部以上の密度に圧縮すると同時にその温度を一億度以上にあげる必要があり、過去60年以上にわたって世界各国で研究が進められてきました。核融合を人工的に起こすには、磁場を用いる方法とレーザー光を用いる方法が提案されています。レーザー光を用いる方法には「高速点火方式」の他にも、核融合燃料を高密度に圧縮しコアの中央部に高温の点火栓を形成してコアを燃やす「中心点火方式」があります。「中心点火方式」は、例えば米国リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)で採用されておりますが、コアの中央部に点火栓を形成するためには照射ビームの均一性が要求されることから、多数のレーザービームが必要となり、超大型のレーザー施設を用いてコアを高密度高温状態にする研究が進められています。

今回の成果は「高速点火方式」で得られたものであり、中央部に点火栓をつくる必要がないため、中心点火方式と比較してエネルギーが一桁以上小さいレーザーで点火ができる可能性があり、大型のレーザー施設を用いて、その物理解明のために研究が進められてきました。

従来、世界のレーザー核融合研究は、大型レーザー施設を用いて核融合燃料へのレーザー投入エネルギー以上の核融合エネルギーを得ることを目的に、関連物理を解明することを再優先して進められてきましたが、本研究チームはレーザー核融合の実用化のイメージを再優先として、小型の装置で、除々にその規模を大きくしていくことが可能なレーザー核融合の基礎研究開発に長年取り組んできました。



レーザー核融合の点火方式

中心点火方式では核融合燃料を高密度に圧縮し、自動的に点火を起こす。高速点火方式ではコアをレーザーで加熱して点火を起こす。高速点火方式を採用することで、爆縮に必要なレーザーエネルギーを一桁小さくできる可能性がある。