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発表者:

小山 知弘(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 助教)

管 一澄(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 修士課程 2 年生)

千葉 大地(東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻 准教授)


発表のポイント:

  • 薄膜磁石と重金属を接合させた材料において、磁界ではなく材料に直接電流を流すことにより磁化を帯びさせることに成功しました。
  • 流す電流量をコントロールすることで、磁化が同一方向に揃った単一磁区構造も実現可能であることを示しました。
  • 本研究成果は、電磁石などの広く一般的に用いられている磁気デバイスの動作原理を一新する可能性を秘めています。


発表概要:

東京大学大学院工学系研究科の小山知弘助教、同研究科の千葉大地准教授らの研究チームは、室温で磁化を持たない多磁区状態にあるコバルト(Co)と白金(Pt)を接合さ

せた試料(以下 Co/Pt 系)において、試料に直接電流を流すだけで磁化を生じさせることに成功しました。電流量を制御することで、試料全体の磁化が同一方向に揃った単一磁区状態を実現できることも示しました。


近年、磁界ではなく電流を用いた磁気メモリの書き込み手法に関する研究が盛んに行われています。特に最近では、Co/Pt 系に代表される薄膜磁石/重金属接合系に電流を流すことで生じるスピン軌道トルク(注1)が、新たな書き込み技術として注目を集めています。本研究で示された電流による磁化誘起現象も、このスピン軌道トルクにより引き起こされていることが明らかにされました。これまでスピン軌道トルクは磁化の向きを反転させる手法としての側面が注目されてきましたが、本研究結果は、多磁区⇔単磁区という磁石の「状態」を自在にスイッチングするというスピン軌道トルクの新しい使い方を提案するものです。


本成果は、2017 年 4 月 11 日(英国時間)に、英国科学雑誌「Scientific Reports(サイ

エンティフィック・リポーツ)」のオンライン版に掲載されます。なお、本研究は科研費若手研究(A)、基盤研究(S), 特別推進研究および村田学術振興財団の助成を受けて実施されました。


発表内容

[研究の背景]

 磁界ではなく電流を用いた磁化反転手法は消費電力の小さい磁気メモリの書き込み手法としての応用が期待されていますが、電流を流すことによる試料の発熱に伴い情報を担う磁化そのものが不安定化し、場合によっては多磁区化して保持されている情報が失われてしまう恐れがあります。近年、薄膜磁石/重金属の接合で生じるスピン軌道トルクを用いた場合、多磁区化を抑制できることがわかってきました。本研究チームは、この特性を利用して、もともと多磁区状態が安定であるような磁石に電流を流すだけで単一磁区を作り出すことができるのではないかと考えました。


[研究内容]

研究チームは、Co の膜厚を原子層レベルでコントロールすることにより、室温において正味の磁化を持たない多磁区状態で安定する Co/Pt 構造を作製しました。試料の磁化の大きさは、磁化に比例する異常ホール抵抗(注2)を測定することで評価しました。


スピン軌道トルクは、磁化を電流方向に傾けたときに有効に作用することが知られています。本研究では、電流と平行方向に微弱な磁界を印加しておくことで磁化を傾けました。電流がない状態では異常ホール抵抗がゼロ(=正味の磁化を持たない多磁区状態)ですが、試料に流す電流が大きくなるにつれて異常ホール抵抗が徐々に大きくなる様子が観測されました(図1)。これは、電流により試料が磁化されていることを示しています。また、電流がある一定値より大きいと異常ホール抵抗が一定になりますが、これは試料が完全に磁化された状態(単一磁区状態)になっていることを意味します。


[社会的意義・今後の予定]

 磁石を磁化させるためには、外部から磁界を加えるのが常識かつ一般的な方法です。しかし本研究により、磁界ではなく磁石に電流を直接加えるだけで磁化できることがわかりました。多磁区⇔単磁区という磁石の状態を自在に制御するといったスピン軌道トルクの新しい使い方が示されたといえます。スピン軌道トルクはナノ秒以下の時間スケールで働くため、今後は多磁区⇔単磁区のスイッチングを超高速で引き起こすことに挑戦し、サブナノ秒で動作する電磁石の動作原理などへと発展させていく予定です。


発表雑誌:

雑誌名:

「Scientific Reports」(オンライン版 4 月 11 日掲載)

論文タイトル:

Investigation of spin-orbit torque using current-induced magnetization curve

著者:

小山知弘、管一澄、千葉大地

DOI 番号:

10.1038/s41598-017-00962-7

アブストラクト URL:

www.nature.com/articles/s41598-017-00962-7


用語解説:

注1 スピン軌道トルク

薄膜磁石と重金属を接合した試料において、試料面内に電流を流した際に基板垂直方向に生じるスピンの流れが磁化に与えるトルク。2011 年に実験的に初めて観測されて以降、新しい磁化反転手法として注目を集めている。

注2 異常ホール効果

磁石に電流を流した時に、磁化と電流に垂直な方向に電圧が発生する現象。


添付資料:


図1 Co/Pt(コバルト/白金)試料に流す電流密度と規格化した異常ホール抵抗の関

係。左上と右上の図は、多磁区状態および電流により単一磁区になっている状態を模式的に示したもの。

東大、磁石に直接電流を流すだけで単一磁区を作り出すことに成功 | テクノロジー | マイナビニュース

推定分野
研究期間 2013年度~2017年度 (H.25~H.29) 配分総額 210,730,000 円
代表者 千葉大地 東京大学 工学(系)研究科(研究院) 准教授
研究期間 2015年度~2018年度 (H.27~H.30) 配分総額 19,760,000 円
代表者 小山知弘 東京大学 大学院工学系研究科(工学部) 助教