関連データ・研究者

関連研究者


研究成果は、ACM Siggraph Asia 2017 の VR Showcase(バンコク)において2017 年 11 月 28 日 – 30 日に発表されます。


名古屋市立大学大学院芸術工学研究科の小鷹研理准教授、森光洋(研究生)は、HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)技術を応用し、対面者とポールを引っ張り合う状況において、「HMD 内で表示される腕の長さ」を「腕を引っ張られる強さ」に応じて変化させることによって、「腕が伸びる感覚」を体感できる Virtual Reality(バーチャル・リアリティー)システムを構築しました。



【研究成果の概要】

近年、Virtual Reality(バーチャル・リアリティー)技術の一つである HMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)の普及により、体験者の視野から現実空間の見えを完全に遮断したうえで、現実とは異なる特性を持った仮想世界を没入的に体験させることが一般化しており、Virtual Reality 研究は新たな局面に入っています。


HMD を活用した研究の一つの方向性として、CG(コンピュータ・グラフィックス)等によって表現された異質な身体のイメージを HMD 内に呈示することによって、「現実とは異なる身体のイメージを有しているかのような感覚」を与える試みを挙げることができます。このような錯覚を生み出すための一般的なアプローチとして、HMD 内において身体のイメージの一部を提示したうえで、イメージ上の特定の身体部位に視覚的な刺激を呈示するのと同時に、現実の身体の対応部位を実際にも触るという手法が挙げられます(Full Body Illusion)。興味深いことには、このとき、現実の身体とは異なるサイズのイメージを適切に呈示することによって、「身体のサイズ感が変形する」ことがわかっています。


本研究は、このような、人間がイメージできる身体スケールの”柔らかさ”に注目し、HMD 内で提示される身体のイメージと現実の身体への刺激を適切に連合することによって、「腕の長さが伸びたり縮んだりする変形感覚」を誘発するインタラクション・システムを設計しました。本研究の特徴は、変形感覚の誘発にあたって、従来の視触覚同期とは異なる手法で、現実と仮想空間の連合を行う点にあります。基本的なアイデアは、「(現実世界の)腕を引っ張られる強さ」に応じて、「(イメージの世界の)腕の長さ」を滑らかに変えようとするものです。この際、「腕を引っ張られる強さ」を、どのように計測するかが課題となります。実際、筋肉の負荷を直接的に計測する手法では、体験者の身体を計測器によって拘束してしまうこととなり、体験者にとって負担の大きいシステムとなってしまいます。そこで、本研究では、対面者と一対一でポールを引っ張り合う過程で、「体験者の腕が強く引っ張られるほど、体験者の自重(体重計で計測される重量)が大きくなること」に着目し、この自重変化を基に「腕を引っ張られる強さ」を推定する仕組みを構築しました。この手法によって、直接的な計測器を一切装着しないストレスフリーな状態で、体験者より筋肉の負荷(に準じた指標)を取り出すとともに、対面者から腕を引っ張られることに応じて、あたかも自分自身の腕が実際に引き伸ばされているかのように感じられる、全く新しいインタラクション・システムを構築することに成功しました。


この体験システム(「Stretchar(m)」:ストレッチャー)は、2017 年 9 月 16-18 日に東北大学で行われた情報処理学会シンポジウム・エンターテインメント・コンピューティング 2017 において、一般の学会に初めて公開されました。このときの発表で本システムを実際に体験された 37 人に簡単な事後のアンケートを行い、「腕が伸びる感覚」の有無について、-3 から+3 までの 7 段階で評価してもらったところ、73%(27 人/37 人)の人が「腕が伸びる感覚」を ”強く”(+2)または”大変強く”(+3)感じていることがわかりました。また否定的な評価(0 以下)を回答した者が、37 人中わずかに2人(5%)であったことから、本システムが、実際に多くの人に「腕が伸びる感覚」を体感してもらえるものであること、合わせて、非常に個人差の少ない手法であることも明らかとなりました。なお、このときのデモ発表は、同学会より UNITY 賞を受賞しています。


以上の成果は、HMD を活用した(1)ゲームなどのエンターテインメントの分野において新しい身体表現の可能性を与えるとともに、(2)人間の”生物としての”空間認識の作法においても質的な変化を及ぼす可能性を示唆するものです。実際、現実空間において手が物理的に届き得る範囲は、行為者にとっての「操作可能な空間」(身体近傍空間)として、脳内の空間的な計算処理においても特別な資源が割り当てられています。逆に言えば、仮想空間において、実際よりも伸びた腕を自分の腕であると感じられるということは、その分だけ当人にとっての行為可能空間が広がるとともに、より幅広い空間に対して身体的な注意を迅速に働かせることができることを示唆してします。このような仮想空間における身体イメージの変化と、それに伴う認知特性の変化を精緻に紐解いていくことによって、 エンターテインメント分野のみならず、リハビリやイメージトレーニングといった、新しい場面での応用の可能性が拓けてくることが期待されます。



【Siggraph Asia 2017 の展示について】

本研究で設計したインタラクション「Stretchar(m)」は、2017 年 11 月 27 日から 30 日の期間にタイのバンコクで開催される、ACM Siggraph Asia 2017 https://sa2017.siggraph.org/ に出展されます。

Siggraph Asia は、CG とインタラクティブ技術の見本市として、例年 60 ヶ国から 7000 人近い参加者を誇る(公式 HP より)アジア最大規模の国際会議です。Siggraph Asia では、昨今のトレンドに従って、Virtual Realityの技術や体験に特化した「VR Showcase」と呼ばれる発表区分が、昨年より新たに設けられています。今回、16 件が採択された「VR Showcase」において、名古屋市立大学芸術工学研究科の小鷹研究室からは、「Stretchar(m)」に加えて「Recursive Function Space」の 2 件の発表が決まっています。


「Recursive Function Space」(上図)も「Stretchar(m)」と同様に、HMD を介して非現実的な身体体験を提供するインタラクション・システムです。具体的には、自分の手の位置から自分自身の身体(頭部)を客観的に眺める、あるいは、自分自身を手の位置に持つ(と想定される)メタな自分(meta-clone)から、自分自身を眺める、といった幽体離脱に近い体験を可能とするものとなります。「Stretchar(m)」と「Recursive Function Space」、それぞれのインタラクションにおける過去の展示における体験者の反応は、すでに小鷹研究室が Youtube に公開している映像において、印象的に捉えられています。ぜひご覧ください。


Siggraph Asia 2017 に出展する二つの HMD システムの関連情報

- Stretchar(m)

(映像)https://www.youtube.com/watch?v=vMOqYUjpuKY

(解説)http://lab.kenrikodaka.com/project/index.html#0102

- Recursive Function Space

(映像)https://www.youtube.com/watch?v=dqqdUnp4PSU

(解説)http://lab.kenrikodaka.com/project/index.html#0001


関連するコンテンツ

小鷹研究室ホームページ: http://lab.kenrikodaka.com

小鷹研究室 30 秒 CM(映像):https://youtube.com/watch?v=70Ls912efng


小鷹研究室の紹介

小鷹研究室は, 来たるべき新しい時代のメディア空間を縦横無尽に闊歩するであろう, 新しい<からだ>(body image)のかたちを模索しています. この刺激的な挑戦のなかで求められるのは, 何億年という時空を経て適応的に形成されてきたであろう<からだ>の成り立ちに対する回顧的な視線です. 僕たちが手に入れることができる新しい<からだ>は, (少し逆説的な言い方になるけれど)「既にそこにあるもの」の中からしか育たないからです.

これらの問題系を考えるにあたって, 「からだの錯覚」を実際に体験してみること, さらには, 新しい「からだの錯覚」を考案することは, 極めて良質なトレーニングの場を提供します. 小鷹研究室は, 認知心理学における重要な概念である 「身体所有感 = sense of body ownership」に対する理解を軸にして, 種々の心理実験から所有感を変調させるための必要条件を吟味するとともに, 昨今, 目まぐるしく刷新を繰り返しているバーチャル・リアリティー技術を積極的に導入し, 「具体的に体験可能なインタラクション装置」のなかで設計された(一見すると異質な)<からだ>のリアリティーを, 様々な尺度で検証しています.


助成

本研究は、科学研究費補助金(若手 B)「モーフィングに基づく非相似的な身体像の誘発に関する研究」の支援を受けて実施されました。


【掲載予定の論文の詳細】

【掲載学会誌】

Proceeding of ACM Siggraph Asia(シーグラフ・アジア) 2017, VR Showcase

【論文タイトル】

(1)Stretchar(m) Makes Your Arms Elastic

(2)Recursive Function Space: Exploring Meta-cognitive Scenery using HMD

【著 者】(1,2 ともに)

Kenri Kodaka and Koyo Mori.

小鷹研 理(名古屋市立大学大学院芸術工学研究科・准教授)

森 光 洋(名古屋市立大学大学院芸術工学研究科・研究生)


研究期間 2015年度~2017年度 (H.27~H.29) 配分総額 4,030,000 円
代表者 小鷹研理 名古屋市立大学・芸術工学研究科(研究院)・准教授