関連データ・研究者

【発表のポイント】

  • 深紫外発光ダイオードの高効率発光メカニズムを解明
  • 強い発光を生じるナノ領域へ電流が集中する特異構造を発見
  • 医療・浄水・殺菌・消毒から高速光通信まで、様々な応用分野に利用できる固体発光素子の効率・性能改善へ道


【概要】

東北大学多元物質科学研究所 小島 一信 准教授、秩父 重英 教授は、創光科学株式会社 平野 光 氏、長澤 陽祐 氏、一本松 正道 氏、名古屋大学未来材料・システム研究所 本田 善央 准教授、天野 浩 教授、名城大学 赤﨑 勇 終身教授・特別栄誉教授と共同研究を行い、深紫外(DUV)波長領域*1で動作するサファイア基板上に作製された窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)*2発光ダイオード(LED)(以下AlGaN LED)の高効率動作メカニズムを解明しました。


地球上には現在、安全な水を飲めない人々が約11億人おり、また、約26億人が清潔な公衆衛生が保たれていない環境において生活を余儀なくされています。この状況を打開し、世界に貢献するためには、殺菌に必要な300 nm*3以下のDUV波長領域において動作する高効率固体光源*4を低コストで実現し、広く利用されることが重要です。DUV光源は太陽光より波長が短いことから、公衆衛生だけでなく高密度光記録や高速光無線通信など、幅広い応用分野にも活用できると期待されます。


小島准教授らは、普及価格を実現できるサファイア基板上に作製されAlGaNLED(創光科学㈱提供)の発光メカニズムを調べた結果、強い発光が生じる微小なナノメートルサイズの領域へ電流が集中する特異な構造が形成されていることを発見しました。本研究は、AlGaN DUV LEDの更なる効率向上に結びつき、医療・浄水・殺菌・消毒や高速光無線通信などの幅広い応用分野で、機器性能の向上へ道を切り開くものと考えられます。


本研究の一部は、物質・デバイス領域共同研究拠点および科研費助成事業若手研究(A)と新学術領域研究「特異構造の結晶科学」の助成を受けています。


本研究成果は、米国物理協会(AIP)の科学誌「Applied Physics Letters」誌にて、2019年1月7日にオンライン公開されました。


【参考画像】サファイア基板上に作製された窒化アルミニウムガリウム LED


1. 背景

Ⅲ族窒化物半導体である(Al,Ga,In)Nは、図1に示すように光通信波長(1.55マイクロメートル)から200ナノメートル(nm)台の深紫外線(DUV)波長までの光を発することが可能な禁制帯幅(バンドギャップエネルギー)*5を持つ、魅力的な半導体材料です。


例えば、窒化インジウムガリウム(InGaN)*6混晶の量子井戸*7を用いた高輝度青色・緑色発光ダイオード(LED)や、青色LEDで黄色蛍光体を発光させる高効率白色LED、さらには光ディスク用紫色レーザダイオードなどが、この20年をかけて次々と製品化されてきました。「高輝度省エネルギー白色光源を実現に導いた高効率青色発光ダイオードの発明」のインパクトに対して、2014年、名古屋大学未来材料・システム研究所の天野 浩 教授と名城大学 赤﨑勇 終身教授・特別栄誉教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校 中村 修二 教授の3名にノーベル物理学賞が授与されたことは特筆すべきことといえます。一方、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)のバンドギャップエネルギーは、紫外(UV)*8波長を広く覆っています。なかでも、300 nmより短い波長領域であるDUV光はオゾン層に吸収されるので地表の太陽光に含まれていないという特徴を持ち、また、消毒能力が高いことから公衆衛生用途で欠かすことができません。


東北大学多元物質科学研究所 小島 一信 准教授・秩父 重英 教授らは創光科学株式会社、名古屋大学、名城大学と共同研究を行い、DUV波長領域(265 nm)で動作するサファイア基板上に作製されたAlGaN LEDの動作メカニズムを調べました。その結果、強い発光が生じる、つまり、より高い効率にて発光する微小なナノ領域が存在し、そこへ電流が集中する特異構造が形成されていることを発見しました。その結果、このAlGaN LEDが高い効率で動作していることが明らかとなりました。

地球上には、現在、安全な水を飲めない人々が11億人おり、また、26億人が清潔な公衆衛生が保たれていない環境にて生活を余儀なくされています。この状況に対し、低コストで製造できるサファイア基板上のAlGaN DUV固体光源の動作メカニズムを明らかにして、さらなる効率向上への道を切り開いたことは、省エネの観点から極めて重要です。また、このようなDUV光源は光の波長が短いことから、公衆衛生だけでなく高密度光記録やソーラーブラインド光無線通信*9など、幅広い応用分野にも活用することができます。


図 1 (Al,In,Ga)N の格子定数とバンドギャップエネルギーの関係。



図2(左)LED表面の電子顕微鏡像(電顕像)

(中)平均より強く光る領域を電顕像に重ね合わせた図

(右)平均より低いエネルギーで光る領域を電顕像に重ね合わせた図


2.研究手法と成果

DUV光を発生する小型固体素子開発の主流は、AlGaN量子井戸を発光層とするLEDの開発であり、これまでに日米をはじめ数多くの企業等が性能向上を報告してきました。その理由は、図1から分かるように、AlGaN混晶のバンドギャップエネルギーがDUV波長領域全体を覆っていることが挙げられます。ここで、AlGaNの結晶成長には、青色LEDを製造する際に用いられている、有機金属気相エピタキシャル成長(MOVPE)法*10が用いられています。しかしながら、青色LEDのような高効率化や低コスト化がそれほど容易ではなく、これまでにAlGaN LEDの高効率化に向けた明確な指針もありませんでした。


このような状況の中、小島准教授らは民生品化されたDUV光源の中でトップクラスの発光効率および素子寿命*11を持つ創光科学社製のAlGaN LEDの構造を電子顕微鏡*12を使って調べました。その結果、LEDの表面には特徴的な凹凸構造が形成されており(図2左)、このうち稜線部分に強い発光が集中して観測されること(図2中)、また、このような強い発光は低いエネルギーを持つ光子*13を放出していること(図2右)を見出しました。さらに、強い発光を生じるナノ領域に電流が集中する特異構造が形成されていることをも発見しました。今回の発見は、AlGaN DUV LEDの更なる効率向上への鍵になると言えます。


3.今後の展望

本研究で明らかになった発光効率を高める特異構造を積極的に制御することで、AlGaN LED のさらなる高効率(省エネ)化が期待されます。これにより、医療・浄水・殺菌・消毒から高速光無線通信まで、幅広い応用分野における機器・装置の性能向上を目指します。


【用語解説】

*1 深紫外(DUV)波長領域:

光の波長のうち、およそ200 nmから300 nmの範囲のこと(明確な区切りはない)。


*2 窒化アルミニウムガリウム(AlGaN) :

窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)の中間的性質をもつ、いわゆる混晶と呼ばれる中間化合物である。


*3 ナノ:

国際単位系の接頭辞であり、基準となる量の「10の-9乗(十億分の一)倍」を意味する。


*4 固体光源:

固体材料のみによって構成された光源のこと。真空容器やガスを用いないため、小型化・高効率化の面で有利。


*5 禁制帯幅(バンドギャップエネルギー):

半導体中で自由に動ける電子と正孔のペアが持つエネルギーであり、半導体材料ごとに固有の値を持つ。また、材料から発せられる光の波長は、この逆数に比例する。


*6 窒化インジウムガリウム(InGaN) :

窒化ガリウム(GaN)と窒化インジウム(InN)を混ぜた青色発光ダイオードの発光層として用いられる半導体のこと。青色レーザとしても実用化されている。


*7 量子井戸:

厚さ2-3ナノメートル程度に薄くした半導体層のこと。通常は障壁層と呼ばれる、禁制帯幅の大きな半導体層に挟まれている。


*8 紫外(UV)光:

波長が400 nmより短い光のこと。


*9 ソーラーブラインド光無線通信:

波長 300 nm 以下の光は、オゾン層にて吸収される。したがって、地表に降り注ぐ太陽の光にこのような波長成分は含まれていない(ソーラーブラインド)。このため、日中であっても、300 nm 以下の波長であれば太陽の影響を受けずに光無線通信が可能となる。


*10 有機金属気相エピタキシャル成長(MOVPE)法:

元素を気体状の原料で供給する結晶成長方法のうち、有機金属原料を用いるもの。特にエピタキシャル、すなわち基板材料や下地材料の結晶性を引き継いだ結晶成長法のこと。高品質な結晶を成長することができ、かつ量産性に優れている。


*11 素子寿命:

ある決まった条件下で素子の使用を開始した時から、既定の水準まで光出力が低下するまでにかかる時間のこと。


*12 電子顕微鏡(電顕):

観測対象に加速した電子を入射し、放出される二次電子の分布から拡大した画像を得る顕微鏡のこと。電子は光よりも空間的に小さく収束させることができるため、光学顕微鏡よりも高い倍率で観測対象の画像が得られる。


*13 光子:

光そのものを指すが、光の量子性が顕在化している場合、もしくはそれが重要な文脈で用いられる言葉。LED の発光原理は、電池等から供給された電子のエネルギーが、発光層にて光子として放出されることに基づいている。


【論文情報】

題目:

Carrier localization structure combined with current micropathsin AlGaN quantum wells grown on an AlN template with macrosteps


著者:

K. Kojima, Y. Nagasawa, A. Hirano, M. Ippommatsu, Y. Honda, H.Amano, I. Akasaki, and S. F. Chichibu


掲載誌:

Applied Physics Letters


DOI:

10.1063/1.5063735