関連データ・研究者

【発表のポイント】

  • 狭心症の重要な原因の一つである冠動脈攣縮(かんどうみゃくれんしゅく)は、まだその病態が十分には明らかにされていない。
  • 本研究において、心臓リンパ管の異常が冠攣縮の原因となることを、大型動物モデル(ブタ)を用いて、世界で初めて証明した。
  • 心臓リンパ管は、冠攣縮性狭心症の新規治療標的となることが期待される。


【研究概要】

東北大学大学院医学系研究科の循環器内科学分野の下川 宏明 (しもかわ ひろあき) 教授、松本泰治(まつもと やすはる)院内講師、天水宏和(あまみひろかず)医師らの研究グループは、冠攣縮性狭心症の原因となっている冠攣縮の成因に心臓リンパ管の異常が関与していることを、ブタモデルを用いて、世界で初めて証明しました。冠攣縮は心臓の動脈(冠動脈)が痙攣を起こす病態で、胸痛や突然死を引き起こします。


心臓リンパ管は、1653 年に世界で初めてその存在が報告されたにもかかわらず、心臓の血管(冠動脈や冠静脈)と比べ、今日までほとんど注目されてきませんでした。本研究は、ブタモデルを用いて、心臓リンパ管の機能不全により冠攣縮が悪化することを世界で初めて示したものであり、心臓リンパ管が冠攣縮性狭心症に対する新規治療標的になり得ることが今後期待されます。本研究成果は、2019 年 2 月 28 日米国心臓協会 (American Heart Association,AHA) の学会誌である Arteriosclerosis Thrombosis, and Vascular Biology(電子版)に掲載されました。


本研究は、文部科学省科学研究費補助金、日本学術振興会科学研究費助成金、および東北大学グローバル COE 研究助成金の支援を受けて行われました。 


【研究内容】

狭心症は、体を動かしているときに胸痛などの発作が起こる労作性狭心症と安静時に発作が起こる冠攣縮性狭心症注1に分けられます。労作性狭心症は心臓の動脈(冠動脈)が動脈硬化によって狭くなることが原因となり引き起こされます。一方、冠攣縮性狭心症は、冠動脈の痙攣(冠攣縮)が原因となり引き起されます。心臓カテーテルによる冠動脈ステント治療注 2 などの労作性狭心症に対する治療法が近年著しい進歩を遂げている一方で、冠攣縮性狭心症には未解明の課題が多く残されています。また、労作性狭心症に対する薬剤溶出性ステント注 3 治療後にも冠攣縮による胸痛が残ることも知られています。


下川教授の研究グループは、この冠攣縮が生じる分子機序に、Rho キナーゼと呼ばれる分子が関与することを世界に先駆けて明らかにしてきました。冠動脈の外側に炎症が生じると、血管の筋肉(血管平滑筋)の Rho キナーゼの発現や活性が上昇して、血管平滑筋の過収縮(攣縮)の原因となります。


血管の外側には、血管を栄養するための微小血管や自律神経などの様々な組織が存在しており、その一つに心臓リンパ管(図 1)があります。心臓リンパは冠動脈のすぐ近くを走行しているリンパ管で、他の臓器のリンパ管と比べて、今までほとんど注目されてきませんでした。本研究では、心臓リンパ管を結紮してリンパ管の機能を抑制して、薬剤溶出性ステント植込み後のブタ冠動脈の冠攣縮反応がどのように変化するかを調べました。その結果、リンパ管の機能を抑制すると冠攣縮が悪化しました (図 2)。顕微鏡下で組織の構造を観察したところ、冠動脈外膜のリンパ管の数が減少し、炎症反応が増強され、Rho キナーゼの発現や活性が上昇していました。以上より、リンパ管の機能不全が冠攣縮に関与していることを世界で初めて明らかにしました(図 3)。


本研究の結果から、心臓リンパ管は、今後、薬剤抵抗性の難治性冠攣縮性狭心症注 4 において、新規治療標的となり得る可能性があります。


【用語説明】

注1. 冠攣縮性狭心症:冠攣縮とは心臓の表面を走行する比較的太い冠動脈が一過性に異常に収縮すること。冠攣縮性狭心症は、冠攣縮により心筋に血液が十分に行き渡らないために狭心痛が生じる疾患。

注2. ステント治療:血管内に網目状の筒(ステント)を留置して、狭くなった血管を広げる治療法。

注3. 薬剤溶出性ステント:留置したステントが慢性期に狭くなる (再狭窄) ことを予防する目的で、金属製のステントの表面に増殖を抑制する薬剤が塗布されているステント。現在の冠動脈ステント治療の多くのケースで使用されている。

注4. 難治性冠攣縮性狭心症:冠攣縮性狭心症に対しては、1 種類以上の内服薬を用いて治療を行うが、難治性冠攣縮性狭心症は複数の内服薬を用いても症状が改善しない病態を指す。胸痛などの症状により生活の質が下がり、時に突然死を引き起こすこともあるため、非常に重要な問題である。


図 1.ブタの心臓の冠動脈(赤)とリンパ管(緑)



図 2. 心臓リンパ管の結紮による冠攣縮の増悪



図 3. 冠攣縮の成因におけるリンパ管の関与



【論文題目】

English Title: Cardiac Lymphatic Dysfunction Causes Drug-Eluting Stent-InducedCoronary Hyperconstricting Responses in Pigs in Vivo.

Authors: Hirokazu Amamizu, Yasuharu Matsumoto, Susumu Morosawa, Kazuma Ohyama, Hironori Uzuka, Michinori Hirano, Kensuke Nishimiya, Yusuke Gokon, Tomomi Watanabe-Asaka, Moyuru Hayashi, Satoshi Miyata, Takashi Kamei, YoshikoKawai, Hiroaki Shimokawa

Journal: Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology.

DOI: 10.1161/ATVBAHA.119.312396.