基礎生物学研究所の森田慎一研究員と新美輝幸教授らの共同研究チームは、カブトムシのメスをオスにする遺伝子を同定することで、角の性差(オスとメスの違い)が現れる時期の特定に成功しました。
カブトムシのオスは立派な角を持ちますが、その角を作るための遺伝子が働き始める時期の詳細は不明でした。今回研究チームは、土を使わずに試験管内でカブトムシ幼虫を観察する方法を確立し、角形成に重要な前蛹と呼ばれる時期に見られる特徴的な行動として「首振り行動」を見出しました。また、カブトムシの性を決める遺伝子transformerを特定しました(transformer遺伝子が働いた個体はメスになり、働かない個体はオスになります)。メスの幼虫において、この遺伝子の機能を完全に抑制すると、メス化が阻害されオスと同様に角が形成されます(図参照)。この現象と試験管内観察法を利用して、角が形成されると予測される前蛹期前後の様々な時期で transformer 遺伝子の機能を阻害し、角の性差が現れる時期 (メスにオスのような角がはじめて形成される時期) を特定しました。今回特定した角の性差が現れる時期は、角形成に関与する複数の遺伝子がダイナミックに働き始める時期と予測され、角形成の鍵となる遺伝子を探索する上で重要な知見をもたらすものです。
本研究は基礎生物学研究所 進化発生研究部門の森田慎一研究員と新美輝幸教授らのグループを中心として、国立遺伝学研究所の前野哲輝技術職員、基礎生物学研究所の重信秀治教授からなる共同研究チームにより実施されました。本研究成果はPLOS Geneticsに2019年4月10日付けで掲載されます。

図 カブトムシの性決定遺伝子transformerの機能を抑制するとメス化が阻害され、メスにオスと同様に角が形成された。
【研究の背景】
角をもつ昆虫の中でも、コガネムシ科には雄のみに立派な角をもつ種が多数存在します。角は、エサ場の確保やメス獲得のための武器としての機能を果たしています。このような角は、幼虫と蛹の間の『前蛹』と呼ばれる時期に、初めて角原基 (成虫の角のもととなる幼虫期の細胞群)として形成され、性差が現れます。しかしながら前蛹期間の角原基の形成過程において、角に性差をもたらす遺伝子が働くタイミングは全く不明でした。
【研究の成果】
角の性差が現れる時期は、前蛹期であることが推測できますが、この時期にカブトムシの幼虫は土中で生活するため、正確な前蛹期開始期の特定が困難でした。そこで、カブトムシの終齢幼虫を土を使わずにプラスチック試験管内で飼育し(図1)、タイムラプス撮影法を用いて観察する方法を開発しました(図2)。その結果、前蛹期の開始に特徴的な行動として「首振り行動」を発見することに成功しました。この行動を指標に前蛹開始期を特定することが初めて可能になり、詳細なカブトムシの前蛹期間 (メスでは 129 ± 4.3 時間、オスでは 131 ± 4.7 時間) がわかりました。この前蛹開始期を0時間として、12時間ごとに120時間までの雌雄の角原基を幼虫から摘出し、形態的な角原基の比較を行ったところ、前蛹36時間にて角原基に雌雄差が認められました (図3)。したがって、角の性差をもたらす遺伝子が働くタイミングは少なくとも前蛹 36時間よりも前であることが推測されます。

図1 プラスチック試験管内での飼育の様子

図2 タイムラプス撮影法による多個体同時観察の様子

図3:角原基の形態変化を時間経過に沿って解析
より正確な角形成プログラム開始時期を特定するために、カブトムシの性決定のスイッチとなる遺伝子の同定を試みました。その結果、transformer(トランスフォーマー)遺伝子が、カブトムシにおいても性を決める遺伝子として働いていることがわかりました。メスの幼虫のtransformer遺伝子の機能を抑制すると、メス化が阻害され、オスと同様の角が形成されました(図4)。

図4 カブトムシの性決定遺伝子transformerの機能を抑制するとメス化が阻害され、メスにオスと同様に角が形成された。
メスの幼虫を用いて、角原基が形成され始める前蛹期の直前もしくは前蛹初期の様々な時期でこの遺伝子の機能を阻害し、オスと同様の角が形成されるタイミングを調べました。その結果、前蛹開始の7時間前にこの遺伝子の機能を阻害したメス個体において、オスと同様の角が形成されました。カブトムシの機能阻害の効果は処理後36時間に現れることから、角の性差をもたらす遺伝子が働くタイミングは、前蛹開始の29時間後 (-7時間+36時間) であることを明らかにしました。

図5 角の性差(オスとメスの違い)が現れる時期のまとめ
【今後の展望】
本研究により、カブトムシの角の性差が現れる時期を特定することに成功しました。この時期の前後では、角形成に関与する遺伝子がダイナミックに働き出すと予測できます。このため、この時期の前後での遺伝子発現の違いを解析することで (比較トランスクリプトーム解析)、角形成の鍵となる遺伝子を探索することが可能となります。今回の成果は、カブトムシの角の獲得機構や進化過程の解明に繋がることが大いに期待されます。
【発表雑誌】
雑誌名
PLOS Genetics 2019年4月10日付(日本時間11日午前3時掲載)
論文タイトル
Precise staging of beetle horn formation in Trypoxylus dichotomus reveals the pleiotropic roles of doublesex depending on the spatiotemporal developmental contexts
著者
Shinichi Morita, Toshiya Ando, Akiteru Maeno, Mutsuki Mase, Takeshi Mizutani, Shuji Shigenobu, Teruyuki Niimi
DOI:
https://doi.org/10.1371/journal.pgen.1008063
【研究グループ】
基礎生物学研究所 進化発生研究部門の森田慎一研究員、安藤俊哉助教、間瀬睦月大学院生、水谷健技術職員、新美輝幸教授らのグループを中心として、国立遺伝学研究所の前野哲輝技術職員、基礎生物学研究所の重信秀治教授からなる共同研究チーム。
【研究サポート】
本研究は、科学研究費助成事業 (23128505,25128706,16H01452,18H04766)および基礎生物学研究所 共同利用研究(18-433)、国立遺伝学研究所 NIG-JOINT(35A2017)などの支援を受けて行われました。










