関連データ・研究者

本学電気電子工学系の粟辻安浩教授,井上智好大学院生らの研究グループは,3次元画像技術であるホログラフィー※1を基に,超短パルス光が伝播する様子とその光の振動方向である偏光※2情報を同時に動画像記録・観察できる超高速イメージング技術の開発に世界で初めて成功しました。従来技術では不可能であった光の偏光の情報の取得を,光の性質である「干渉」を利用することで可能にしました。超高速で伝播する光の偏光の変化を捉えることで,光化学反応メカニズムの解明や近年注目が高まる高分子材料やメタマテリアルなどの新規材料による偏光制御の高機能化など偏光利用技術の進展が期待されます。

この研究成果は,2019年4月10日に,アメリカ光学会発行の学術雑誌「Optics Letters」に掲載されました。


ポイント

  • ホログラフィーによる,世界初となる光伝播の動画像記録・観察と偏光情報の取得が可能なイメージング技術とそのシステムの構築に成功
  • 光の干渉に着目することにより偏光情報の取得に成功
  • 光が伝播する様子の 3 次元像と偏光情報(1 次元)を同時にスローモーション観察可能であり,光化学反応や最先端光波制御素子評価への応用が可能


研究の背景

近年,レーザーなどの光を利用する技術は極めて重要であり,今後もその発展が大いに望まれています。中でも,2018 年のノーベル物理学賞受賞テーマの 1 つ,極めて短い時間だけ光を照射できる超短パルスレーザー※3は情報通信や材料加工,医療など様々な分野での利用が急速に進んでいます。また,このような最先端のレーザーを利用した技術において光パルスが伝播する様子を画像,とりわけ動画像によるスローモーション観察する技術は,高性能光ファイバーによる光通信の大容量高速化,パルスレーザーの性質を利用した加工技術の高精度微細化,レーザーによるがん治療の高速・高性能化など様々なレーザー利用技術の基盤となります。しかし,光はこの世で最も速く,真空中を秒速約 30 万 m/sで伝播するため,光が伝播している様子は速すぎて直接見ることができないのはもちろん,世界最高速級の高速度カメラをもってしても撮影が不可能です。


本学粟辻教授らの研究グループは 3 次元画像技術であるホログラフィーと最先端の超短パルスレーザーを組み合わせた技術を用いて,光パルスが伝播する様子のスローモーション動画記録・観察に関する研究を行ってきました。これまでに研究グループは,反射,回折,屈折,集光の様子をパルスレーザーの一種であるピコ秒やフェムト秒レーザー※4 を用いてスローモーション観察に成功しています。しかしながら,これまでの技術では記録方法の問題から,光が伝播する様子の光の明るさ情報でしか記録・観察できませんでした。


研究の内容

本研究では,光の 3 次元情報を記録・再現を可能にする技術であるホログラフィーを基に,超短光パルスが伝播する様子と,その光の振動方向の情報を持つ偏光状態に関する情報を同時にスローモーション動画として観察できる超高速イメージング技術を提案し,その技術に基づくシステムを構築しました。


これまでの超高速イメージング技術は,高時間分解能を有するストリークカメラや非線形光学を利用したフェムト秒時間分解画像計測法と数々のシステムが研究・開発され進展してきていますが,上述の超高速イメージング技術では光が持つ様々な情報の中で明るさ情報しか取得できませんでした。


本研究で提案した技術は,超短光パルスの伝播の様子のスローモーション動画像記録と偏光情報の取得を可能にします。その特徴は,ホログラフィーにおける干渉の性質を利用した点です。ホログラフィーにおいて,記録対象の情報を持った物体光と参照光とで偏光方向が同じ場合には再生像が明るくなります。一方,物体光と参照光の偏光方向が直交している場合には再生される像は暗くなります(図 1)。ホログラムを空間的に区切り,この干渉の性質を全区画で同時に記録することで,一度の記録で伝播する光を構成する複数の偏光の成分を観察可能です。超短パルスの伝播とその偏光状態の同時スローモーション観察を可能にした超高速イメージング技術やその技術に基づくシステムは世界初であり,基礎科学や医療分野だけでなく工業分野においても画期的ツールとしての利用が期待されます。


本研究では,超短光パルスが伝播する様子と偏光状態を同時にスローモーション動画として記録することを実現するため,ホログラフィーにおける参照光を空間的に広げたのち,複数枚の偏光フィルムで作製した偏光フィルタ群を通過させることで複数の偏光状態が同時に記録される複数の干渉縞画像を形成します(図2)。この干渉縞画像を高分解能の写真乾板で記録します。原理確認実験として,偏光に任意の空間分布を持たせるような物体中を伝播する超短光パルスおよび偏光によって光の伝播方向が異なる性質である複屈折性をもつ方解石中を伝播する超短光パルスの伝播の様子をスローモーション観察に成功しました(図3)。



図1 超短光パルス伝播の様子のスローモーション動画記録の概念図
(上)これまでの手法(下)本研究の手法



図2 複数の偏光情報を同時に動画像で記録するための実験システムの概要 



図3 方解石中を伝播する超短光パルスをスローモーション観察した結果;
(a)スローモーションで観察した結果 (b)方解石中を伝播する光パルスの拡大図「(図(a)上段黄枠部分」,(c)方解石に入射し,伝播する光パルスの概略図(論文より引用)。


今後の展開

本研究で提案・実証した技術は,これまで不可能であった超短光パルスの伝播の様子とその偏光情報を同時にスローモーション動画像として記録することの実現により,従来は観察できなかった極めて短い時間に発生する偏光の変化に伴う超高速現象の画像観察を可能にします。新規材料の最先端研究では,最先端高分子材料やメタマテリアルによる偏光の超高速制御や偏光と細胞の相互作用に対する注目が高く,当該分野の研究者に本研究で提案・実証した技術を利用したイメージングツールを提供することで多くの新しい発見や知見が得られることが期待できます。


今後の課題としては,本研究での原理実証実験では,記録・観察範囲が高分子材料,メタマテリアルや細胞内の光の伝播の様子をイメージングの対象とした場合には広すぎること,微弱光の記録が困難であることが挙げられます。これは,顕微鏡などの拡大観察が可能なシステムを構築して導入していないこと,記録時に余分な光と重なり観察したい光が埋もれて見づらくなることが要因です。今後は細胞内の光の伝播の様子を観察が可能となるマイクロオーダー範囲の記録・観察,またその範囲で発生する微弱光のスローモーション観察を目指します。


用語解説

1. ホログラフィー

光の干渉と回折を利用した,物体からやってくるすべての光の情報を記録・再生が可能な技術です。記録には,物体を通過または物体を反射した光(物体光)と基準となる光(参照光)を干渉させ,干渉した光の明るさ分布を高解像写真乾板で干渉縞画像として記録します。再生時には記録時に用いた参照光と同じ光を明るさ分布が記録された高解像写真乾板に照射することで物体光が再生されます。

2. 偏光

光は電場と磁場が波となって進む電磁波の一種です。電場の方向は,光の振動方向と直交していますが,一般にはその向きは決まっていません。この電場の向きが 1 方向にそろったものを直線偏光と呼びます。



図 4 偏光の説明図


3. 超短パルスレーザー

発光時間の極めて短い光を放つレーザーのこと。

4. ピコ秒パルスレーザー,フェムト秒パルスレーザー

ピコ秒パルスレーザーは 100 億分の1秒程度以下の時間だけ,フェムト秒パルスレーザーとは,10 兆分の1秒程度以下の時間だけ光を放つことができるレーザー。極めて短い時間で光を放つことを利用し,超高速現象の発生や計測用光源や材料の微細加工に用いられる。ピコは1兆分の1,フェムトは 1000 兆分の 1 です。


謝辞

本研究は、独立行政法人日本学術振興会(JSPS) 科学研究費補助金基盤研究(A)「フェムト秒光パルスの偏光伝播の顕微動画像記録・観察とその超高速現象観察への応用」の支援を受けて行なったものです。


論文情報

・タイトル “Spatiotemporal observations of light propagation in multiple polarization states”

・著者 Tomoyoshi Inoue, Atsushi Matsunaka, Akinori Funahashi, Tatsuya Okuda,

Kenzo Nishio, and Yasuhiro Awatsuji

・掲載誌 Optics Letters

・DOI 10.1364/OL.44.002069

・アブストラクト URL

https://doi.org/10.1364/OL.44.002069