関連データ・研究者

【本研究成果のポイント】

  • 自分の経験を批判的に見ない人の場合、白昼夢にふけることが幸福感を向上させることが分かりました。
  • アニメやゲームの消費(オタク消費)の多い人の場合も、白昼夢にふけることが幸福感を向上させることが分かりました。


【概要】

広島大学大学院総合科学研究科の杉浦義典准教授と日本学術振興会の杉浦知子特別研究員との研究グループは、通常は不適応的なものとされる白昼夢が幸福感につながる条件を明らかにしました。調査研究の結果、2つのタイプの人で、白昼夢の頻度が多いほど幸福感が高いことが分かりました。一つは、自分の体験を批判的に見ない傾向の人で、マインドフルネスの高い人と言われます。もう一つは、アニメやゲームの消費の多い人でした。


2010 年にハーバード大学の研究チームが、人は平均すると起きている時間の約50%は白昼夢にふけっていると Science 誌に発表しています。また、人が白昼夢にふけっている間は幸福感が損なわれることも報告しています。このように起床時間の多くを占める白昼夢が幸福を損ねるというのは、矛盾しているように見えます。この研究では、白昼夢が幸福感を高める場合と損ねる場合がある、と考えました。そして、白昼夢が幸福感を高める条件として、マインドフルネスの傾向が高いことと、アニメやゲームの消費が多いこと、という2つのものがあると予想しました。この予想を検証するため、2つの研究を行いました。


第一の研究では、日本人成人 800 人を対象にインターネット調査を行いました。この調査の結果、2つのタイプの人が、白昼夢の頻度が多いほど幸福感が高いことが分かりました。一つは、自分の体験を批判的に見ない傾向の人で、マインドフルネスの高い人と言われます。もう一つは、アニメやゲームの消費の多い人でした。


第二の研究では、アニメやゲームに関する内容の白昼夢が幸福感を高めるという可能性についてより踏み込んで検討するために、白昼夢の頻度と幸福感の程度を質問する前に、アニメのキャラクター風の少女のイラストを提示するという実験操作を行いました。一瞬目に入った情報が、その人が気づかぬうちにその後の認知に影響する現象をプライミングと呼びます。心理学ではこの現象を実験操作によく用います。質問の内容とは関係のないイラストが気づかぬうちに、白昼夢の経験を思い出して質問に答えるときに影響すると考えられます。実験の結果、アニメ風のイラストを見てから答えてもらった場合、白昼夢の頻度と幸福感に正の関連が見られました。


本研究の結果は、白昼夢を楽しみ、有効に活用できる条件を明らかにしたものです。起きている時間の半分を占める活動であれば、それをなくそうと努力するよりも、どのようにしたらそれを有効活用できるか、を考える方が自然です。本研究成果は、科学誌「Journal of Happiness Studies」のオンライン版に5月6日に掲載されました。


<発表論文>

論文タイトル

Relation Between Daydreaming and Well-Being: Moderating Effects of Otaku Contents and Mindfulness


著 者

杉浦義典 1、杉浦知子2

  1. 広島大学大学院総合科学研究科
  2. 日本学術振興会


掲載雑誌

Journal of Happiness Studies


DOI 番号

doi.org/10.1007/s10902-019-00123-9


【背景】

ふと気がつくと心ここにあらずの状態であったり、目の前のこととは関係のないことを空想していたり、といったことはだれでも経験していることです。このような状態は白昼夢と言われます。スマートフォンをもちいた調査から、平均すると起きている時間の約50%は人は白昼夢にふけっていることをハーバード大学の研究チームが 2010 年に Science 誌に発表し、大きな注目を浴びました。同チームは、人が白昼夢にふけっている間は幸福感が損なわれることも報告しています。


しかし、白昼夢が不適応なものであるとは考えにくいものです。このように起床時間の多くを占める白昼夢が幸福を損ねるというのは、矛盾しているようにおもわれます。このように考える背景には、人が白昼夢にふけっているときは、高次の認知活動を担う脳の領域が活動していることが見いだされているという知見があります。白昼夢の時に働く脳の部位と、自分の経験を思い出したり、将来の計画を立てるときに活動する脳の部位とは重複が大きいのです。すると、白昼夢は無駄な、意味のないものと考えるよりは、条件によっては幸福を高めることのできるものと考える方がよいでしょう。勉強を努力したり、感情をうまくコントロールしたりというように、役にたつ高次の認知機能は、それをうまくやることはむずかしいものです。白昼夢も同じで、うまくやれれば幸福感の向上に役立つ一方で、うまくやる条件が限られているのかも知れません。


この研究では、マインドフルネスとアニメやゲームの消費(オタク消費)を、白昼夢が幸福感を高める条件と考えました。白昼夢は高次の認知活動ですが、人間の脳には高次の認知活動をさらに高いレベルからモニターしてコントロールする働きがあり、メタ認知と呼ばれています。マインドフルネスの傾向の高い人はメタ認知の機能が高いといえます。また、オタクの人は、自分の好きなアニメやゲームの登場人物と空想上で恋愛を楽しんだりすることが知られており、白昼夢の達人であると考えられます。


【研究成果の内容】

この論文は、2つの研究からなっています。


研究1では、800 人の成人(半数は女性で、年齢は 20 歳から 59 歳でした)を対象にインターネットで調査を行いました。白昼夢の頻度、幸福感、マインドフルネスの程度、アニメやゲームにどの程度お金を費やしているか(オタク消費)を質問しました。その結果、マインドフルネスあるいはオタク消費の多い人では、白昼夢の頻度が多いほど幸福感が高いことが分かりました。白昼夢というと子供や青年に特有のものと思われがちですが、幅広い年齢層でこのような結果がえられたことは興味深いことです。また、白昼夢の頻度が高いほど幸福感は低くなりがちであるという研究知見が多い中で、白昼夢の頻度が高いほど幸福感が高いのはどのような人かを明らかにした点も重要です。


研究2では、特にオタク消費に焦点をあてました。こちらの方が過去の研究例が少なく、より新しい知見であるためです。研究1と違った方法で検討するために、プライミング操作という方法を用いた実験を行いました。プライミングとは、一瞬目に入った情報が、その人が気づかぬうちにその後の認知に影響する現象です。心理学ではこの現象を実験操作によく用います。研究では白昼夢の頻度と幸福感の程度を質問する前に、アニメのキャラクター風の少女のイラストを提示するという実験操作を行いました。合計 104 人の成人(55 人は女性で、年齢は 22 歳から 50 歳でした)に参加してもらい、半数の参加者にはイラストを提示し、残りの半数には真っ白な画面を提示する実験を行いました。その結果、イラストを提示された人でなおかつイラストを見ていた時間が短い場合、白昼夢の頻度が高いほど幸福感が高いことが分かりました。質問の内容とは関係のないイラストが気づかぬうちに、白昼夢の経験を思い出して質問に答えるときに影響すると考えられます。プライミング現象は短時間の刺激提示によって出やすくなるため、この結果は納得の行くものです。


【今後の展開】

マインドフルネスは、心の病を治療したり、幸福感を高める効果があることが分かっています。本研究の知見は、マインドフルネスがどのように幸福感を高めるのかというメカニズムについて新しい見方を提供しています。マインドフルネスは、自分の内に向いた意識を外に向けることで効果をもつという単純化したとらえかたをされることもあります。しかしそうではなく、白昼夢も含めて、自分の内面で起きていることとの「付き合い方」をより洗練させたものにすることに役だっていることが分かります。


また、アニメやゲームは日本が誇る文化として世界から注目されています(クール・ジャパン)。そのコンテンツ(アニメやゲームなど)は、翻訳され輸出もされていますが、文化というものは、それを楽しむための「作法」も伴うものです。オタクと呼ばれるアニメやゲームの熱狂的なファンは、受動的にコンテンツに触れるのではなく、そのキャラクターや世界観をもとにした独自の空想を働かせて楽しんでいることが知られています。いわば、オタクは白昼夢の達人と考えられます。本研究のデータは、それを支持するものです。


白昼夢にふけりがちな人は「もう少し現実をみましょう」と言われてしまったりしますが、むしろ起きている時間の多くをしめる現象であればそれを活かす方が有益です。マインドフルネス瞑想のトレーニングでは、自分の中でおきる空想などとの付きあい方を意識してするとよいかも知れません。白昼夢はまたアニメやゲームなどを楽しむ作法として、コンテンツと同様に海外に「輸出」できるかも知れません。


語句説明

・白昼夢

起きている時間の中で、自分がふと目の前のことに集中していないことに気づくことがあります。このようなとき、通常は何も考えていないのではなく、目の前にあるものごととは別のことについて頭の中で空想をめぐらしていることが多いものです。このような空想を白昼夢と呼びます。


・プライミング

人は、ふと目や耳にした情報に気がつかないうちに影響を受けることがあり、それをプライミング効果という。「ふと目や耳にした」と「気がつかないうちに」という部分が重要で、情報が見える時間が短かったり、辛うじて見える程度の時に生じやすい現象である。意図的にプライミングを起こすことをプライミング操作と呼び、心理学の実験ではよく用いられる。若い人に「老い」に関する単語を見せると、その後では歩く速度がゆっくりになったり、お金の画像を見せたあとにチョコレートを食べてもらうと早食いになるといったことが知られています。


・マインドフルネス

マインドフルネスとは、今、目の前にある一瞬一瞬の体験に、先入観にとらわれない穏やかな注意を向けている心の状態です。マインドフルな状態になりやすい人とそうでない人がいます。マインドフルネスの高い人は、食事の時もスマホを見ながらかきこむのではなく、じっくり歯ごたえ、味、香りをあじわいます。また、集中しようとしたときに、つい気が散ったりすると「ああ、なんて集中力がないんだ」と嫌な気分になってしまいがちな人は多いですが、マインドフルネスの高い人は自分の集中が途切れたことに気づき、淡々と穏やかにもとの活動に注意を戻すことができます。この傾向を高める方法をマインドフルネス瞑想と呼び、心の健康、教育、産業など多くの分野で応用されています。


【参考資料】


図1 マインドフルネスの高い人(破線の楕円で囲んだ線)あるいはアニメやゲームの消費の多い人(実践の楕円で囲んだ線)は、白昼夢の頻度が高いほど幸福感が高いことを示す(直線が右上がりになっている)

図の横軸は、白昼夢の頻度、縦軸は幸福感の程度を示す。



図2 プライミング実験で用いられたイラスト

半数の実験参加者には、白昼夢の頻度と幸福感を答えてもらう前に、図のイラストが提示された(作:更生之素さん)。残りの半分の実験参加者には、ただの白い画面が提示された。



図3 イラストを提示された人でなおかつイラストを見ていた時間が短い場合(楕円で囲んだ線)、白昼夢の頻度が高いほど幸福感が高い(直線が右上がりになっている)ことを示す。

図の横軸は、白昼夢の頻度、縦軸は幸福感の程度を示す。

プライミングの操作は、その刺激を提示する時間が短い方が効果があるとされる。

研究期間 2014年度~2016年度 (H.26~H.28) 配分総額 4,680,000 円
代表者 杉浦義典 広島大学 総合科学研究科