関連データ・研究者

新潟大学脳研究所統合脳機能研究センターの伊藤浩介らの研究グループは、絶対音感の脳の仕組みを調べるため、“ド”の音に対する脳応答を、左右の聴覚野から脳波で記録しました。絶対音感のない音楽家や、音楽経験のない者では、脳応答の大きさに左右差はありませんでしたが、絶対音感のある音楽家では、それが左優位でした。脳の左半球は言語の処理に関わります。絶対音感では、ドレミなどの音を、言語のように処理することを示唆する結果です。 


【本研究成果のポイント】

  • 絶対音感の脳機能を脳波で測定
  • 絶対音感では、ドの音高に対して左半球優位な脳応答
  • 絶対音感では、音楽の音も、言語と類似な処理をしている可能性


研究の背景

絶対音感とは、比較する音がなくとも、音の音名が早く正確に分かる能力です。音楽家が持つ能力であることから、音楽的な能力だと思われています。


しかし、脳機能の観点からは、違う見方もできます。絶対音感保持者の脳が行っているのは、連続的な音高を、半音単位で人為的に区切って、名前を付けるということです。これは、いわば音高の言語化です。つまり、絶対音感は、言語機能の一種とみなすことができます。実際、絶対音感を訓練で獲得しやすい時期は、子供が母国語を習得する時期と一致しています。


このように絶対音感を言語機能とみなす考え方が正しいか検証するため、新潟大学脳研究所統合脳機能研究センターの松田将門、五十嵐博中、伊藤浩介が研究を行いました。


研究の概要と成果

ドの音高を聞いた時に生じる脳応答につき、左右の聴覚野(音を処理する大脳部位)から発生する脳波反応(聴覚誘発電位)である、N1cという成分を記録しました。N1cの大きさは、非言語音については左右半球で同等ですが、言語音については左半球優位であることが知られています。左の聴覚野が、言語処理に関わるからです。


実験の結果、絶対音感のない音楽家や、音楽経験のない者では、予想通り、ドの音高に対するN1c反応に左右差はありませんでした。しかし、絶対音感のある音楽家では、その応答が左優位でした(図1)。絶対音感保持者は、ドレミなどの音を、まるで言語のように処理しているかのようです。


さらに詳しく解析すると、絶対音感保持者で左優位なN1cが生じたのは、左のN1cが大きいのではなく、右のN1cが通常よりも小さいことが原因でした。右聴覚野の脳活動をあえて抑制することで、左聴覚野の言語機能が働きやすくなると推測されます。




今後の展開

絶対音感で音高に音名が付くメカニズム、左右の聴覚野の役割、絶対音感を獲得するとき脳では何が起こっているのかなど、絶対音感の脳の仕組みについては、まだまだ分からないことばかりです。この解明には、絶対音感を、脳の言語機能との関連から調べていくことが重要だと考えられます。


成果の公表

この研究成果は、Frontiers in Neuroscience 誌(IMPACT FACTOR 3.6)に 2019 年 8 月 6 日(現地時間)掲載されました。

論文タイトル:

Auditory T-complex reveals reduced neural activities in the right auditory cortex in musicians with absolute pitch

著者:

Masato Matsuda, Hironaka Igarashi, Kosuke Itoh

doi:

10.3389/fnins.2019.00809