関連データ・研究者

研究経緯

2018 年、養命酒製造と愛媛大学医学部附属病院が看護師を対象とした臨床試験を行い、クロモジエキスを摂取することでインフルエンザ罹患率が低くなることが確認されました(『薬理と治療』Vol.46(8) ,2018 年)。そこで、クロモジエキスがインフルエンザウイルスの増殖を抑制できるタイミングやその効果の持続性を調べるために、信州大学(担当教員:農学部准教授 河原岳志)との共同研究が開始されました。


材料と方法

・材料

クロモジエキス:クロモジ(最下段参照)の幹枝の熱水抽出物を濃縮し、液体連続殺菌法(120℃、40秒)により殺菌し、噴霧乾燥してクロモジエキス乾燥粉末とした。

培養細胞:イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来の培養細胞(Madin-Darby canine kidney (MDCK)細胞)

ウイルス:A 型インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/34, H1N1 株)を用いた。すべての実験において、感染多重度が 0.002 となるように添加した。


・方法

細胞変性の観察:細胞を 70%エタノールで固定し、0.5%クリスタルバイオレットで染色後、マイクロプレートリーダーを用いて 560 nm における吸光度を測定した。

ウイルス複製の解析:細胞から回収した総 RNA を鋳型として cDNA を合成した。cDNA 中に占めるインフルエンザウイルス A/Puerto Rico/8/34 株由来 M1 タンパク質発現量をリアルタイム PCR 法で解析した。GAPDH を内部標準遺伝子としてΔΔCt 法によって実験区ごとの M1 タンパク質の mRNA の発現量を相対的に比較しました。


結果

①クロモジエキスの細胞増殖に及ぼす影響



②クロモジエキスの細胞変性抑制作用

②-1:ウイルスに感染した MDCK 細胞にクロモジエキスを添加する場合



②-2:ウイルスとクロモジエキスを同時に培養液に添加した場合




③クロモジエキスのウイルス複製抑制作用

③-1:MDCK 細胞をクロモジエキスで処理し、エキス除去直後にウイルス感染させた場合



③-2:MDCK 細胞をクロモジエキスで処理した後に、エキスを培養液から取り除いた条件で一定時間培養後にウイルス感染させた場合



以上の結果をまとめると、

①:クロモジエキスは細胞の生存や増殖に影響を与えませんでした。
②−1:ウイルスに感染した後でも細胞の変性が抑制されました。
②-2:クロモジエキス成分がインフルエンザウイルスに直接作用することが容易な条件であるにもかかわらず、細胞変性の抑制は②-1 と同程度でした。
③-1:細胞をあらかじめクロモジエキスで処理し、エキス除去直後にウイルスを感染させると、感染後のウイルスの増殖が抑制されました。
③-2:クロモジエキスを除去した後でも一定時間はウイルスの複製抑制作用は維持されていました。


これらのことから、クロモジエキスは細胞増殖に影響を及ぼさない濃度において、ウイルスによって引き起こされる細胞変性を抑制することが示唆されました。さらに、クロモジエキスによって活性化される感染抑制機構が宿主細胞に存在する可能性が考えられると共に、クロモジエキスのウイルス感染抑制効果が持続的であることも分かりました。


今回の研究は限定的な条件下で示された効果であるものの、クロモジエキスの摂取がインフルエンザウイルス感染症に対する効果的な予防手段となり得ることを示唆しています。今後の応用に向け、クロモジエキスに含まれている有効成分や生体における成分濃度、存在時間と作用との関係性、さらにウイルスの増殖抑制作用を説明する分子機構の解明が期待されます。


クロモジについて

https://www.kuromoji.jp

クロモジは日本の山地に自生するクスノキ科の落葉低木です。リラックス作用が期待されるリナロールを主成分とするよい香りがあり、古くから楊枝や香木、生薬(烏樟:うしょう)として使われています。2018 年 9 月には全国のクロモジ事業に携わる自治体や団体らによって「クロモジ研究会」が発足しました。クロモジの研究成果や事業活動を発信し、クロモジ資源の保護や産業の発展が人々の健康増進に貢献できるように認知啓発に取り組んでいます。



クロモジの枝