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国立環境研究所気候変動適応センター副センター長の肱岡靖明を含む、クィーンズランド大学オヴェ・ホゥ・グルベルグ教授(IPCC 1.5度特別報告書統括執筆責任者)らの研究グループは、地球の環境及び生態系のほぼあらゆる局面は気候変動の影響による変化を受けており、将来的にそのいくつかは壊滅的とはいかないまでも深刻になることを明らかにし、世界的指導者に対し気候変動対策を緊急かつ加速的に実行するように求めるべくレビュー論文を公表しました。   

これは、アメリカ科学振興協会発行の学術誌「Science」2019年9月19日版に掲載されます。

1.概要

本研究グループの研究により、気候変動の進行を食い止めることは優れた投資であることがわかりました。これからの数十年間において、気候変動による被害額に比べて温室効果ガス削減にかかる費用ははるかに小さく、一方で削減が行われなければ人々やインフラ、生態系への影響に苦しめられることになるとこの論文は述べています。

   内容としては、

   1)1℃の気温上昇はすでに大きな影響を自然界・人間界に与えている

   2)次の数十年の気候変動への理解

   3)1.5℃の気温上昇と2℃上昇との差

   4)1.5℃気温上昇時の生態系影響

   5)1.5℃、2℃による人間社会システムへの影響リスクの増加

   6)解決法:数値化、実行可能性と倫理

等がreviewされ、結論として気候変動対策を緊急かつ加速的に実行することの重要性が述べられています。

本論文を発表するにあたり、筆頭著者であるオーストラリアのクィーンズランド大学オヴェ・ホゥ・グルベルグ教授は、「気候変動対策を行うことは、その対策によって回避できる影響を考慮すると、非常によい投資効果と考えられます。」と述べています。また、「まず、私たちは自然や人間のシステムの気候変動に対する感度とこうした変化が起きるスピードを低く見積もってきました。次に、気候の脅威の相乗的な効果、つまり単に足し合わせるよりも深刻な傾向にある影響を正しく評価してきませんでした。このような課題があったため、温室効果ガス削減がなかなか進まず、結果として急激で広範囲に及ぶ気候変動影響が生じ、人々や自然生態系、及び生活への損害が増大してきているのです。」とも述べています。

ほんの数年前の予測と比べて、気候変動影響が早くかつ大規模に生じているという多数の証拠に基づくと、気候変動対策を行うことはいっそう切実なものとなります。すなわち、温室効果ガスの早急な削減は、緊急かつ必要不可欠なものとなってきています。各々のリスクは小さいかもしれませんが、小さな変化でも多くのリスクが集積されると、それは大きな影響に繋がる可能性があります。例えば、海面上昇が進むと暴風雨の際により大きな被害をもたらすこととなり、特に、貧困地域ではさらに状況を悪化させる懸念があります。

共著者であるドイツの気候サービスセンターのディレクターであるダニエラ・ジェイコブ教授は、こうした急激な変化、特にこれまでに例のない異常気象を懸念し「私たちは新たな局面にいます。気象の『新しい一面』により、気象に関わる現象を予測したりこれに対応したりすることが難しくなっているのです。」と述べています。

この論文では、気候関連の変化のデータベースを更新し、産業革命以前の気温と比べて2℃上昇を防ぎ、1.5℃に押さえることを目指すことから得られる重大な利点があることを結論づけていますが、これまで研究者は森林や生物多様性、食糧、作物及び重要なシステムのリスク予測を評価し、地球温暖化を2℃ではなく1.5℃に抑えること、また1.5℃を越えることを避けることによって、とても重要な便益が得られることを発見し、政策担当者にこうしたリスクを避ける利点を知らせるため、科学界はリスクを数値化してきました。温暖化の進行を1.5℃に留めるために必要な政策を策定するために、政策担当者が最適な情報を得られるよう、パリ協定の発効後、政策効果の数値化が盛んになっています。これに関してイギリスのイースト・アングリア大学のレイチェル・ウォーレン教授は本論文の発表にあたり「もし効果的な政策を目指さないのであれば、我々は化石燃料を燃やし、大規模な自然生態系の劣化を拡大する森林破壊を続ける現在のやり方を踏襲することになります。正直なところ、我々が今行動しない限り、事態の改善は厳しいと考えています。」と付け加えています。

近年の国連の報告書では、これからの数十年及び一世紀にかけて、数百万もの種が絶滅の危機にさらされると予測されています。これは気候変動だけが要因ではありませんが、最も重要な要素の1つであると指摘されています。

共著者であるジャマイカ大学科学学部長のミカエル・テイラー教授は「これは学術的な問題ではありません。世界中の人々にとっての生死にかかわる問題なのです。特に、気候変動の影響は、島嶼国や低地に住む人々にとって差し迫った大問題です。私はこうした地域の人々の将来をとても心配しています。」と指摘しており、また南アフリカのウィットウォータースランド大学地球変動研究所で気候学を担うフランソワ・エンゲルブレヒト教授は、開発途上国の気候変動影響に対する脆弱性を鑑みて「特にアフリカの開発途上国では、緩和策が強力に推進されない場合、経済成長へ影響を最も受けることになります。」と気候変動対策の緊急性の重要度を指摘しています。

ホゥ・グルベルグ教授は、気候変動対策と2015年のパリ協定に沿った排出削減目標強化の観点から、来年(2020年)の重要性を以下のように説明しています。

「現在の排出削減の約束は十分ではなく、特定の脆弱な貧困層を伴う多くの国々を混乱させ、その環境をより悪化させる可能性があります。このような状況を回避するため、我々は各国がパリ協定に沿えるように行動を加速し、排出削減目標を厳しくすべきであると考えています。我々が論文で示しているように、気候変動の対策にかかる費用は、2℃以上の気候変動影響を被るよりもずっと費用がかからないものなのです。気候変動問題に取り組むことは、とても難しい挑戦ですが、人類の幸福という観点から見ると他に選択肢はありません。そして、この問題にすぐに取り組まないことは、あまりにも危険なことです。」 

2.発表論文

O. Hoegh-Guldberg*, D. Jacob, M. Taylor, T. Guillén Bolaños, M. Bindi, S. Brown,I. A. Camilloni, A. Diedhiou, R. Djalante, K. Ebi, F. Engelbrecht, J. Guiot, Y. Hijioka,S. Mehrotra, C. W. Hope, A. J. Payne, H.-O. Pörtner, S. I. Seneviratne, A. Thomas,R. Warren, G. Zhou (2019) The human imperative of stabilizing global climate change at 1.5℃, Science 365, eaaw6974

3.その他

このレビュー論文は、IPCC 1.5度特別報告書を基に作成されたものです。

4.共同研究機関

University of Queensland

Climate Service Center Germany (GERICS)

Helmholtz-Zentrum Geesthacht

University of the West Indies

University of Florence

University of Southampton

Bournemouth University

University of Buenos Aires

Université Grenoble Alpes French National Research Institute for Sustainable Development (IRD)

CNRS

Grenoble INP

IGE

United Nations University-Institute for the Advanced Study of Sustainability (UNU-IAS)

Halu Oleo University

University of Washington

University of the Witwatersrand

Aix Marseille University

CNRS

IRD

INRA

Collège de France

CEREGE

World Bank

University of Cambridge

University of Bristol

Alfred Wegener Institute

ETH Zurich

Climate Analytics

University of the Bahamas

University of East Anglia

Chinese Academy of Meteorological Sciences