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立命館大学薬学部の北原亮教授とオーフス大学(デンマーク)のフランス・モルダー准教授らの研究グループは、タンパク質がかたちを変えて壊れていく様子(変性)を捉える手法を開発し、DNAウイルスであるT4ファージのタンパク質T4リゾチームについて、その詳細な変性過程の解明に成功しました。 タンパク質は、あらゆる生命現象の中心を担う分子で、その機能の破綻はアルツハイマー病などの神経変性疾患にもつながります。これまでに、X線結晶構造解析法、核磁気共鳴(NMR)法、低温電子顕微鏡法などタンパク質が持つ安定なかたち(=立体構造)の解析方法は確立されてきましたが、溶液中でかたちを変え揺れ動くタンパク質の描像については未解明でした。そのような安定な状態(天然状態)を逸脱した“壊れかけ”のかたちこそが、タンパク質の機能発現やアミロイド線維化などの異常な分子凝集に関わっている可能性が指摘されています。僅か0.01%の壊れかけのタンパク質が細胞内にあるだけでも、時間とともに異常凝集が進み神経変性疾患になる可能性が高まります。 

今回の研究では、生命科学研究では特徴的な技術である「圧力」と、分子運動の検出に優れたR2緩和分散NMR法と水素/重水素交換NMR法を併用することにより、酵素機能に関わる速い分子運動(マイクロ秒)から、かたちが壊れ変性する遅い分子運動(秒)までの広範囲の運動を捉えることに成功しました。研究対象としたT4リゾチームは、約160アミノ酸からなる小さな酵素ですが、少なくとも3つの壊れかけのかたち(変性中間体)があることがわかり、天然状態とそれら変性中間体のエネルギー差や体積差も併せて解明されました。 

現在、様々な酵素が産業利用され、抗体をはじめタンパク質医薬品も増えつつあります。タンパク質の構造安定性の理解と品質管理は、それらの産業利用、安全使用において最重要課題です。本手法は、NMR測定が可能なあらゆるタンパク質に応用でき、タンパク質の産業応用や創薬研究を加速する可能性があります。

※本研究成果は、2019年10月1日(日本時間)にアメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)(オンライン版)に掲載されました。

※本研究論文は、立命館大学生命科学研究科の大学院生 若本拓朗さんも著者の1人として関わっています。