関連データ・研究者

要点

  • 太陽光照射下、酸フッ化物を光電極とした水の分解に成功。
  • 長時間の光照射に対しても安定に駆動。
  • 太陽光をエネルギー源に水から水素を製造、二酸化炭素還元への応用も。


概要

東京工業大学理学院化学系の前田和彦准教授、平山直樹大学院生らは、鉛とチタンからなる酸フッ化物(用語1)が太陽光照射下で水を分解する光電極(用語2) として機能することを発見した。

n型半導体(用語3)である酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2(鉛・チタン・酸素・フッ素) が小さなバンドギャップ(用語4) と水分解に有利な価電子帯/伝導帯構造を有していることから、光駆動型の水電解の可能性を検討して実現した。太陽光に含まれる可視光成分を吸収して、自身の分解などを伴うことなく安定に水を酸化して酸素を発生できるため、水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素還元への応用も期待される。

これまで、可視光で水を安定的に酸化でき、かつ電気エネルギーの印加なしで駆動することができる光電極材料はほとんど知られていなかった。今回の前田准教授らの発見により、酸フッ化物群が電気エネルギーなしで安定に駆動する革新的光電極となる可能性が見えてきた。

研究成果は2019年10月5日、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。


研究の背景

太陽光に多く含まれる可視光を利用して、水を水素と酸素に分解する光電極は、半世紀以上も前から国内外で精力的に研究されている(図1)。光電極に用いられるn型半導体には、①可視光を吸収できる小さなバンドギャップ②水分解に際して追加で必要となる電気エネルギーを最小にする高い伝導帯ポテンシャル③水の酸化に対して安定な価電子帯構造―が求められるが、これらすべてを満たすn型半導体材料はほとんど知られていなかった。

前田准教授らはこれまでに、酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2が可視光応答可能な狭いバンドギャップと高い伝導帯ポテンシャルを有するn型半導体であり、安定な可視光応答型光触媒となることを見出していた (参考文献1)。だが、Pb2Ti2O5.4F1.2の水中での反応活性の向上が課題となっていた。特に、この材料の高効率化には、光吸収によって生じた電子と正孔を効率良く水へと受け渡せる反応場の構築が必要となっていた。



図1. 可視光応答型光電極による水分解


研究成果

前田准教授らは透明導電性ガラス上に積層したPb2Ti2O5.4F1.2微粒子電極が、太陽光照射下で水を分解する安定な光電極となることを見出した(図2)。長時間の光照射に対しても光電極性能は低下することなく水から酸素を生成し続け、安定な価電子帯構造を有するn型半導体の有効性が明らかとなった。これは、酸フッ化物を光電極として用いて水を分解した世界初の例でもある。

またレーザー分光測定により、Pb2Ti2O5.4F1.2に生じた電子と正孔が長寿命を有していることもわかり、光エネルギー変換材料として本質的に優れていることも明らかとなった。



図2. 酸フッ化物Pb2Ti2O5.4F1.2を用いた太陽光照射下での光電気化学的水分解


今後の展開

これまで、可視光で水を安定的に酸化でき、かつ電気エネルギーの印加なしで駆動しうるn型半導体光電極材料はほとんど知られていなかった。今回の前田准教授らの発見により、酸フッ化物群が電気エネルギーなしで安定に駆動する革新的光電極材料となる可能性が見えてきた。

今後、光電極構造や電解条件の最適化を行うことで、さらなる性能向上が見込まれる。またPb2Ti2O5.4F1.2は水分解水素製造だけでなく、二酸化炭素還元のための光電極部材としての応用も期待される。


付記

本研究は近畿大学の岡研吾講師、豊田工業大学の山方啓准教授のグループとの共同で行った。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金新学術領域計画研究「複合アニオン化合物の新規化学物理機能の創出」(代表:前田和彦東京工業大学准教授)、新学術領域公募研究「Pb,Biを含む酸フッ化物における特異的な物性の開拓と起源の解明」( 代 表 :岡研吾近畿大学講師)  、「複合アニオン化合物の光励起ダイナミクス」(代表:山方啓豊田工業大学准教授)等の助成を受けて行った。


用語説明

(1)酸フッ化物:同一化合物内にアニオン種として酸素とフッ素を含む無機化合物。

(2)光電極:半導体からなり、光エネルギーを吸収してキャリア(電子と正孔)を生み出すことのできる電極。同じ粒子上で酸化と還元が起こる光触媒に対して、光電極では酸化と還元の反応場を物理的に分離構築できるため、高効率な太陽光エネルギー変換に有利とされる。

(3)n型半導体:電荷を運ぶキャリアが電子である半導体。

(4)バンドギャップ:半導体において電子で占有されたバンドを価電子帯、空のバンドを伝導帯といい、価電子帯と伝導帯の幅の大きさをバンドギャップという。電子は伝導帯の下端を、正孔は価電子帯の上端を動く。


参考文献

[1] Ryo Kuriki, Tom Ichibha, Kenta Hongo, Daling Lu, Ryo Maezono, Hiroshi Kageyama, Osamu Ishitani, Kengo Oka, Kazuhiko Maeda, J. Am. Chem. Soc., 2018, 140, 6648–6655.


論文情報

掲載誌:Journal of the American Chemical Society

論文タイトル:Solar-Driven  Photoelectrochemical  Water  Oxidation  over  an  n-Type Lead-Titanium Oxyfluoride Anode

著者:Naoki Hirayama, Hiroko Nakata, Haruki Wakayama, Shunta Nishioka, Tomoki  Kanazawa, Ryutaro  Kamata,  Yosuke  Ebato,  Kosaku  Kato,  Hiromu Kumagai, Akira Yamakata, Kengo Oka, Kazuhiko Maeda

DOI:10.1021/jacs.9b06570