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神戸学院大学薬学研究科の水谷健一特命教授と滋賀医科大学の依馬正次教授、渡部千里特任助手(本学博士課程1年)などの共同研究グループは、血管が蛍光たんぱく質で光る遺伝子改変マウスを用い、母胎内で脳が作られる過程において、組織内の血管新生(注1)が時間的・空間的にどのように進行するかを詳しく観察すると共に、これらの毛細血管が、脳を形成する細胞である神経幹細胞(注2)や神経前駆細胞(注3)の働きとどのような関連性があるのかについて解析しました。

その結果、神経前駆細胞は毛細血管の「管部分」と高頻度で直接接触するのに対して、神経幹細胞は血管が作られない領域(無血管の領域)に存在し、この無血管の領域には血管の「管」は入らず血管先端細胞(注4)の「仮足(突起)」が神経幹細胞と接触することで、神経幹細胞の性質を極めて巧妙に調整していることを初めて明らかにしました。

本研究成果は 2019 年 10 月 29 日(米国東部時間)の米科学誌「セル・リポーツ(CellReports)誌」オンライン版に掲載されます。

※本件は神戸学院大学より、兵庫県教育委員会記者クラブにも提供しています。


【研究の背景】

ヒトのからだには血管が全身に張り巡らされていますが、生体内で血管が適切に作られないと臓器を上手く作れないことが知られています。また、臓器の中を詳しく見ると、血管密度が極めて高い領域もあれば、ほとんど血管が作られない「無血管」の領域もあります。こうした組織内の血管化の質と量は、綿密に生体内でプログラムされていることが知られています。しかしながら、これまで、脳の毛細血管がどのような規則性を持って作られ、これが脳の形成とどのような関連性があるのかは分かっていませんでした。


【研究の概要と成果】

水谷特命教授らは、脳が作られる過程では、定められた時期だけ「無血管」である領域が定められた場所にだけ作られ、この「無血管」領域が神経幹細胞の増殖を助けるための重要な環境を作っている仕組みを見つけました。組織に血管を作るためには、血管内皮増殖因子(VEGF)(注5)が必要です。共同研究グループは、発生期の脳では、ある特定の時期に、神経幹細胞が位置する無血管の領域でだけに VEGF がたくさん放出されるものの、血管の管状構造を作らずに、毛細血管の「仮足(突起)」だけが過剰に形成され、この「仮足」をもった特殊な血管(血管先端細胞)が神経幹細胞の増殖を助ける重要な働きをもつことを発見しました(添付図参照)。一方で、神経幹細胞よりも分化した神経前駆細胞やオリゴデンドロサイト前駆細胞は、血管と直接接することで分化するタイミングを巧妙に調節していることが分かりました。つまり、組織に規則的に作られる毛細血管が、幹細胞の働きを助けるための細胞外環境を構築し、脳を精確に形成する上で、必要不可欠な役割を果たすことが明らかとなりました。



図:発生期の脳組織内で観察される規則的な毛細血管の構造

脳の組織内では規則的な毛細血管の構造がつくられ、一段階分化が進んだ神経前駆細胞やオリゴデンドロサイト前駆細胞は血管の「管」に直接接触する一方で、より未分化な神経幹細胞は無血管領域に位置し、血管先端細胞の「仮足(突起)」と接触する。


【研究の意義・今後の展望】

哺乳類では、神経幹細胞が必要な数だけ分裂し、必要な細胞を生み出すことで、多様な機能をもった複雑な脳組織を形作りますが、何がこのような複雑な臓器形成を支えているのかは未解明の問題が数多く残されています。今回の発見は、脳が形作られる生命現象の理解に繋がるばかりでなく、再生医療の実現化のための神経幹細胞の効率的・安定的な培養技術の開発に寄与するものと考えられます。また、組織・臓器内の特殊な血管環境は加齢とともに変化することが知られていることから、今回発見された現象が脳の老化や病態の解明に発展することが期待されます。


 【用語解説】

(注1)血管新生:血管が新しく作られる様式のこと。個体が形作られる発生時期だけでなく、発生後も様々な病態で生じることから、重要な治療標的と考えられている。


(注2)神経幹細胞:自己複製能と非自己への細胞分裂能を持つ細胞であり、中枢神経系を構成するニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトなどの細胞を産み出す未分化な細胞。


(注3)神経前駆細胞:未分化ではあるが神経幹細胞から一段階分化した細胞。


(注4)血管先端細胞:新生される血管の先端に位置する血管内皮細胞のことで、血管を構成する周囲の血管内皮細胞とは異なる特徴的な細胞形態を示す。


(注5)血管内皮増殖因子(Vascular endothelial growth factor: VEGF):血管に対して強力な増殖作用を示し、血管の発生・伸展に必要不可欠なタンパク質。遺伝学的にVEGF を欠損させたマウスでは体内に血管が作られず、胎生致死となる。


【発表雑誌】

掲載誌:Cell Reports(セル・リポーツ)

掲載日:米国東部時間 2019 年 10 月 29 日

タイトル(和訳):“Spatiotemporally dependent vascularization is differentlyutilized among neural progenitor subtypes during neocortical development.”

(時空間依存的な血管化は、大脳皮質発生過程における神経幹細胞と神経前駆細胞で区別して利用される)

著者名:鈴木(駒林)真理子、山西恵美子、渡部千里、岡村恵美、田畑秀典、岩井亮太、味岡逸樹、松下淳、木戸屋康浩、高倉伸幸、岡本正志、木下和夫、市橋正光、永田浩一、依馬正次、水谷健一


【研究グループ】

神戸学院大学、滋賀医科大学、愛知県医療療育総合センター、滋賀県立総合病院研究所、大阪大学、東京医科歯科大学からなる共同研究グループ