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ポイント

  • プランクトンや魚類が海洋の温暖化に対してどのように対応しているかを解明。
  • 寒冷指向種の種数と現存量が減少する一方,温暖指向種では種数と現存量が増加する可能性を示唆。
  • 漁業管理や生態系管理の発展に期待。


概要

北海道大学北極域研究センターのガルシア・モリノス助教らの研究グループは,プランクトンや魚類がより深い水深や,より高い緯度へ移動することで気候変動に対応していることを解明しました。

地球温暖化に対する海洋生物群集の応答は,種ごとに異なり,また種間の相互作用も変化するため把握が容易ではありません。研究グループは,1985 年まで遡って得られた国際調査資料約 300 万点から,海洋の温暖化が北半球に生息する魚類やプランクトンの生物群集構造にどのような影響を及ぼしているかを,各生物の温度耐性を考慮して解析しました。

その結果,北大西洋のような急速に温暖化している海域では,寒冷指向種*1 に取って代わり温暖指向種*2が優占するような強い変化があることを解明しました。この変化は,北太平洋やメキシコ湾のような水温が比較的安定した水域ではあまりみられませんでした。温暖化に敏感な海洋生物群集の特徴としては,群集を構成する各種の適温帯は狭い一方で,それぞれ異なる適温帯を持つことが挙げられます。今回解明した急速に温暖化している海域で影響を受けている生物群種はまさにこのような特徴を持ちます。しかし,ラブラドール海のような急速に海面表層が温暖化している海域では,深度方向へ強い水温勾配があるため(100 m あたり 5℃ずつ変化),予想されるよりも海洋生物群集の水平移動が小さい代わりに,寒冷指向種はより深い水深へ移動することによって温暖化へ対処していることがわかりました。

本研究成果は,海洋の温暖化によって寒冷指向種の種数と現存量が減少する一方で,温暖指向種の種数と現存量が増加する可能性があることを示唆しています。また,気候変動による海洋生物群集構造への影響が 3 次元的に起こることについても示唆するものであり,2 次元に簡素化して表現しようとすると誤った結論を導く恐れがあることを示しています。現時点で観測可能かつ予測可能な生物群集変化を把握することは重要で,本研究成果を踏まえた漁業管理や生態系管理の発展が期待されます。

なお,本研究成果は,2019 年 11 月 25 日(月)公開の Nature Climate Change 誌に掲載されました。


【背景】

海水温が上昇するにつれて,海洋生物はこれまで相対的に水温が低かった海域へ分布域を移動させています。しかし,種ごとに異なる温暖化への対応や種間相互作用の変化は,生物多様性の再編成や種の相対的な現存量の予測を困難にしています。


【研究手法】

過去 30 年にわたる魚類とプランクトンの調査データを用いて,温暖化がどのように温暖指向種や寒冷指向種の相対的な優占度を変化させるかを調べました。


【研究成果】

研究グループは,安定した水温を示す海域(例:北東太平洋やメキシコ湾)では優占度にほとんど変化が見られないのに対し,温暖化海域(例:北大西洋)では温暖指向種が優占するような強い変化があることを解明しました。特に,種ごとの生存可能な温度帯が狭く,かつ,それぞれ異なる適温帯を持つ種群で構成される生物群集では,水温変化に対し敏感に反応することが示されました。しかし,水温の深度勾配が大きい海域における魚類構成は,期待されるほどの変化は見られませんでした。そのような海域では,陸上植物における生息高度の変化と同様に,水平的というよりは鉛直的に(相対的に深い水深へ)移動していることがわかりました。


【今後への期待】

近年の水温変化による海洋生物群集構造への影響は,海洋生物種の温度耐性を通じて作用します。この影響は,気候変動の結果としてどれだけ早く地球規模の生物多様性が再編成されているかを測る基準になり,本研究成果を踏まえた漁業管理や生態系管理の発展が期待されます。


論文情報

論文名:Ocean community warming responses explained by thermal affinities and temperature gradients

(生物の温度適性と環境温度勾配によって説明される海洋生物群集の温暖化応答)

著者名:Micheal T Burrows1,Amanda E. Bates2,3,Mark J. Costello4,Martin Edwards5,6,Graham J. Edgar7,Clive J. Fox1,Benjamin S. Halpern8,Jan G. Hiddink9,Malin L. Pinsky10,RyanD. Batt10,Jorge García Molinos11,Benjamin L. Payne1,David S. Schoeman12,13,Rick D. Stuart-Smith7,Elvira S. Poloczanska14,15 (1スコットランド海洋科学協会,2サウサンプトン国立海洋学センター,3 ニューファウンドランドメモリアル大学,4 オークランド大学,

5Sir アリスターハーディ卿海洋科学財団,6プリマス大学,7タスマニア大学,8カリフォルニア大学サンタバーバラ校,9バンガー大学,10ラトガース大学,11北海道大学,12サンシャインコースト大学,13ネルソンマンデラ大学,14A アルフレッドウェゲナー研究所,15クイーンズランド大学)

雑誌名:Nature Climate Change(地球科学の専門誌)

DOI:10.1038/s41558-019-0631-5

公表日:2019 年 11 月 25 日(月)(オンライン公開)


【用語解説】

*1 寒冷指向種 … 比較的寒冷な環境を好む種のこと。

*2 温暖指向種 … 比較的温暖な環境を好む種のこと。