研究課題情報

研究課題番号

日本の研究.com 研究課題ID 日本の研究.com : 124494

厚生労働科学研究費補助金 : 201314008B

研究期間 2011年度 ~ 2013年度
(平成23年度 ~ 平成25年度)
事業区分
事業分野

研究費情報

年度 年度総額
2011 16,393,000 円
2012 14,616,000 円
2013 9,385,000 円
総額
40,394,000 円

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極めて予後不良の悪性胸膜中皮腫(MPM)に対する化学療法・肉眼的完全切除・放射線治療を組み合わせた集学的治療法は、切除可能MPMの予後を向上させ、早期例に治癒の可能性を与える唯一の方法である。肉眼的完全切除(MCR) を得る方法には、胸膜・肺・横隔膜・心膜を一塊として切除する胸膜肺全摘術(EPP) と患側肺を温存させる胸膜切除・肺剥皮術(P/D) がある。EPPは拡大術式であり、MCR率が高く、術後に放射線治療(RT)を実施しやすい利点がある反面、極めて侵襲的で、術後合併症が多い。一方、縮小術式のP/Dは、術後合併症、治療関連死が少ない反面、MCR率はEPPに劣り、術後RTは不可能である。本研究では、切除可能MPMに対する集学的治療法の確立を目指し、EPPを含む集学的治療法を対照としたP/Dを含む治療法を試験アームとするランダム化比較第Ⅱ相試験を実施することである。このランダム化試験には、その前段階として、両術式を含む治療法の遂行可能性確認試験が必須であり、第一に両治療法の遂行可能性を確認し、続いてランダム化試験に着手することを目的とした。

MPMに対するP/D術式は、欧米では比較的よく実施されてきたが、我が国では呼吸器外科医の経験が非常に少なく、遂行可能性確認試験を行うに際しては、我が国におけるP/D術式の標準化が必要であった。そこで研修会や学会などにおいてP/D術式の標準化を推進することにした。化学療法に引き続きP/Dを行う治療法(P/D試験)の対象は、未治療切除可能MPM(組織亜型は問わない)、臨床病期I-III期(T1-3, N0-2, M0)、75歳未満、PS0-1である。治療方法は、シスプラチン(CDDP 75mg/m2)+ペメトレキセド(PEM、500mg/m2)による導入化学療法を3コース施行後、病勢増悪のない症例に対してP/Dを企図してMCRを行うものである。主要エンドポイントをMCR達成率とし、副次エンドポイントをP/D実施率、P/DによるMCR達成率、全生存率、術後3ヶ月の肺機能、有害事象発生率、治療関連死亡率、奏効率とし、予定登録症例数は24例とした。P/Dを企図してMCRを行うとしたのは、P/Dでは不可能であっても、術式をEPPに変更することによりMCRを達成することが可能だからである。MCRの評価のため、臓側および壁側胸膜切除面の分かるビデオの提出を義務付けた。一方、EPPを含む集学的治療法(EPP試験)は、本研究開始前から着手していた多施設遂行可能性確認試験であり、主要エンドポイントは、EPPによるMCR率(50%以上)と治療関連死亡率(10%以下)である。適格基準はP/D試験と同じであるが、術前化学療のPEMは同量であるが、CDDPの投与量は60mg/m2であり、P/D試験よりも少ない設定である。また、術後の放射線照射は54Gyである。 両試験の遂行可能性が確認された後に、EPP試験を対照としたP/D試験の治療法を試験アームとするランダム化比較第Ⅱ相試験に着手することとした。

P/D試験は全国21施設の倫理委員会で承認され、平成24年9月から登録が開始され、平成25年10月に目標数に達し、臨床試験を完遂している。治療関連死はなく、MCR達成率は79.2%であった。本療法ではMCR達成のために、3例がEPPへの術式変更が行われ、P/D実施率は67%であった。一方、拡大術式のEPP試験には42例が登録され、平成23年度に完遂している。本法のMCR達成率は71.4%、治療関連死亡率は9.5%、プロトコール治療完遂率は40.5%であった。 MCR達成率に関しては、拡大術式のEPPは71.4%、縮小術式であるP/Dは79.2%であり、両術式から得られるMCRは同等と考えられる。一方、治療関連死率に関しては、EPPを含む治療法の遂行可能性は確認されたが、9.5%の治療関連死亡は、MPMに対するEPPを含む治療法が一般臨床において無条件に実施するような治療法ではなく、経験のある施設での臨床試験において実施すべきであると考えられた。それに対して縮小術式のP/Dを含む治療法は、治療関連死は0%であった。本研究で、“P/Dを含む治療法(P/D試験)”と“EPPを含む治療法(EPP試験)”の遂行可能性が確認され、両治療法のランダム化比較第II相試験を実施する環境が整備され、着手が可能になった。

本研究で、患側肺を温存するP/D、根治性を高めたEPPを含む治療法の両者の遂行可能性が確認された。MCR率に差のない両術式の何れを含む治療法が、切除可能例に対して有効であるかを明らかにするランダム化比較第II相試験の環境が整ったと考えられる。本臨床試験により切除可能MPMに対する治療法が確立するものと考えられる。

本研究において、悪性胸膜中皮腫に対する縮小手術である胸膜切除・肺剥皮術(P/D)が、侵襲的な拡大手術である胸膜肺全摘術(EPP)と同等の肉眼的完全切除率を得る術式であることが示され、両術式を含めた治療法の安全性が確認された。最近の後方視的検討では、P/Dの成績がEPPを含む治療法を凌駕することが示され、欧米ではP/Dが主流になっている。本研究により、我が国で初めてP/D術式の標準化と安全性が確認され、切除可能例に対する治療の選択肢が増え、両術式を含む治療法の無作為化比較試験の環境が整った。

悪性胸膜中皮腫は根治性を最大に高めたEPPを実施しても、局所再発は避けられず、放射線照射を追加する治療が行われる。しかしながら、術後の心肺機能・QOLの悪化が必発であり、また、9.5%の治療関連死は、許容範囲とされても、一般臨床で行う治療法ではない。一方、患側肺を温存するP/Dは、EPPと同等の肉眼的完全切除率があり、治療関連死の発生はない。両者の比較試験で最適な治療法が示されるが、我が国で全く実施されなかったP/Dの安全性が示されたことで、我が国の中皮腫の臨床は大きく前進すると考えられる。

EPPの有効性は2010年の欧州のガイドラインでは明らかではないとされ、一方、P/Dは緩和的治療とされていた。2011年にEPPと化学療法の比較試験が英国で実施され、EPPに有益性はないと結論されたが、2014年のNCCNガイドラインでは、これらを踏まえて、早期例にはP/Dが第一選択としている。我が国では今までP/Dが実施されることがなく、本研究で初めてP/D術式の標準化と安全性の確認がなされた。本研究により、今後の我が国のガイドラインに外科治療法を含めることが可能となった。

中皮腫はアスベスト曝露との関連が明らかな職業性腫瘍と考えられてきたが、一般住民が受ける極めて低濃度の曝露でも発生することが知られている。現在、大阪泉南地域、尼崎市、鳥栖市など、全国7地域で環境省が実施している石綿健康リスク調査では、中皮腫の早期発見が重要なポイントとなっている。NCCNガイドラインでは、早期例にはP/Dを含む治療法を第一選択としている。本研究により、第一選択とされるP/D術式の標準化と安全性が確認され、我が国での悪性胸膜中皮腫の早期例に対する診療体制は整ったと言える。

日本肺癌学会総会、日本呼吸器外科学会において、悪性胸膜中皮腫の治療法に関するシンポジウムを開催し、世界肺癌会議(IASLC)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)でその成果を公表した。